番外編 後編 無敵の笑顔①
暫く楽しく飲んでいると、街の中を巡回しているウィンが大慌てで私の所へやってきた。相当な事件が無いと呼びに来ないように言いつけているから、私はすぐに頭を仕事モードに戻す。
「おい、マゼンタ……そいつぁなんだ?」
オリヴィアに聞かれ、私は笑みを浮かべながら立ち上がった。
「使い魔よ。ちょっとトラブルが起きたみたいだから、行ってくるわ」
「使い魔ぁ? えー、マゼンタちゃん……魔法使いだったのぉ?」
「そーよ。知的な見た目通りでしょ?」
「どう見ても脳k……さ、流石マゼンタ姐さんッス!」
何故か笑顔を見せただけなのに、背筋をピンと伸ばすラーヤ。まったく、失礼しちゃうわ。
私はコインをテーブルに置くと、彼女らにひらひらと手を振る。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ。足りなかったらマスターに言っといて、今度払いに来るから」
まぁ昼間にマリンにこっそり払いに来て貰うんだけどね。
酒場を出ると、ひんやりとした空気がさらに酔いを覚ます。いつもならこの空気に任せてひらひら新規のお店に入ったりもするけれど……今日はそうも言ってられない。
街の治安維持は、領主の役目だからね。面倒だけど。
「びゅうびゅう」
ウィンの案内に従って、夜の街を駆ける。せめて殺しじゃないことを祈るけれど……こればっかりは分からないものね。
屋根から屋根へ飛び移り、徐々に治安の悪い方へ進んでいく。マリンが言う所の『裏』に近いところだ。
スラム街というほど貧困層ーーつまりホームレスとかがいるわけではなく(家か無い奴も冒険者にはなれるからね)、一見は普通の町並み。
だけどなんだか空気が違う、腕自慢の冒険者も用が無ければ近づかない地域、それが『裏』の入口。
ちなみに何で入口という言い方をするのかというと、本物は既に表の人間がコンタクトを取れるようなところにいないから。深く入り込み、私たちのすぐ隣にいて……表からこぼれ落ちた人間を取り込もうと狙ってる。
だからここはあくまで入口、ある意味正規ルート。
「びゅうびゅう!」
だいぶ中に来た所で、ウィンが合図を出す。この辺の建物にしては少し高い四階建ての建物だ。
……元が日本で発売されたゲームだからしゃあないけど、なんで中世風の建物が立ち並ぶ中にこんな高い建物があるのよ。
いやまぁ、魔法とかあるから建てられるのは分かるけどね?
まぁいいか、私は軽く息を吐いてから窓枠を掴んで中を覗く。
「ここね? あらよっと!」




