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番外編 中編 あぁ素晴らしい喧噪に今日も乾杯①

あんまりにもストレート過ぎたので、話タイトルを変更しました。

番外編は後編までです。

 さて、夜はまだ始まったばかり。オッサンを助けて気分も良いし……ここはひとつ、行きつけのビストロで腹ごしらえと行きたいところだけど、あいにく夜食のおにぎりを食べて出て来たからあんまりお腹は空いていない。

 というわけでここはひとつ……遊びも兼ねて、冒険者酒場にでも行きましょうかね。


「たのもーう」


 バーン! とスイングドアを開けながら中に入る。するとざわついていた店内が一瞬だけ静まり、私に視線が集中した。

 野郎共の聖地、荒くれ者の楽園に場違いな女が入ってきたから――では、無い。


「マゼンタが来たぞー!」


「野郎共、出会え、出会えぇぇぇ! 今日こそやるぞぉぉおおお!!」


「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


「相変わらず、騒がしいわねぇ」


 ノリの良い奴ら。ちなみにマゼンタというのは、私が夜遊びする時の偽名。サングラスがマゼンタ色だから自然とそう呼ばれるようになった。

 私はとりあえずカウンターに向かい、おっちゃんに千ミラを投げた。


「ビールちょうだい。あとクルミ」


「……あいよ」


 無愛想なオッサンが、木のジョッキと瓶ビールをカウンターに置く。そしてクルミの入った木皿をその辺に置いた。

 私はビールの王冠を指で剥がし、ジョッキの中に全部注ぐ。そしてクルミをパキッと素手で割って、口の中に放り込んだ。


「美味しいわねぇ。さーて……」


 私はグルっと酒場の中を見渡し、景気よく空ジョッキが置いてあるテーブルに座った。二級冒険者の……マンディ、だったかしらね。


「ねぇ、マンディ。今日は景気が良いみたいじゃない」


 がしゃんとジョッキを置くと、マンディがその辺の空ジョッキを手でどける。がらんがらんと鳴って落ちたジョッキを、彼のチームメイトっぽい子たちが片付けていった。

 その様子を見ながら、マンディは大笑いして私のジョッキに自分のそれを当てる。


「おう、マゼンタ。オークを狩ったんだが、コイツがでっかくてよ!」


「いいじゃない」


 そう言いながら、私は足を組んで肘をテーブルに置いた。そして彼の顔を見つめると……マンディもにんまりと笑って懐から四千ミラほどのコインを取り出した。


「一勝負と行こうぜ! おい、シザー! ビール買ってこい!」


「へ、へい!」


 シザーと呼ばれた少年がカウンターへ走る。私は自分のジョッキを飲み乾し、テーブルに勢いよく置いた。


「何にする? 腕相撲? 飲み比べ? コイントス?」


「当然、腕相撲だ!!」


 どん! と丸太のように太い腕をテーブルに置く。マンディは私と三十センチくらい身長差があるから、腕もその分彼の方が長い。

 大盛りあがりになる店内。私はニヤニヤ笑いながら、叫んでいる連中を眺める。


(良いわねぇ、こういう雰囲気。荒くれ者達が熱に浮かれる感じ。暴走族チームの集会とか思い出すわ)


 私が以前、冒険者ギルドの前で酔っ払い冒険者に現実を教育して以来、こうして勝負を申し込まれることが通例になっている。

 冒険者ギルドでは喧嘩と賭け事はご法度。その代わり三つのルールでの勝負が認められている。

 それが腕相撲、飲み比べ、コイントスだ。勝負がついたら敗者が勝者になんでも良いから一杯奢り(飲み比べのみ、その代金を敗者が持つ)、あとはノーサイドという爽やかなもの。

 なお、腕相撲とコイントスは武器なしの暴力ありである。


「負けんなよマンディ!」


「今日こそマゼンタの鼻っ柱をへし折ってやれ!」


「イケー! 殺せー!」


 流石に殺さないで欲しいんだけど。

 苦笑しつつ、マンディの腕を掴む。私の腰と同じくらい……いや、私の腰よりも太い腕。私の腰はこんなに太くない。

 彼は楽しそうに笑うと、組んでいる手を思いっきり握ってきた。


「一月前とは違うぜ、マゼンタ。その小枝みたいな腕をへし折ってやる」


「どう違うのか見せてもらおうじゃないの」


 私たちが手を組むと、シザーと呼ばれていた男がビールを持ってやってきた。

 そして私たちの横に立つと、すぅと息を吸い込む。


「レディ、ゴー!」


 ガンッ! と掛け声よりも早く私の腕に力がかかる。完全なるフライング、競技なら即失格行為。

 そして次の瞬間、マンディがもんどりうって冒険者酒場の壁に激突していた。


「バカねぇ、ちょっとフライングしたくらいで勝てるわけないじゃない」


「「「いやそうはならないだろ」」」


 ドン引きした様子の面々。ここにいる連中、暴力で見を当ててるはずなのにこのくらいで驚くのよねぇ。


「なによ、あんたら筋トレが足らないのよ」


「筋肉だけでそんなことが出来てたまるか!」


 でも私は基本、筋肉しか使ってないし……。

 転がっていったマンディをしり目に、別の男が私の前に出てきた。真っ赤な髪色で、とげとげした風貌。ガタイも結構いいし、なかなかやりそうだ。


「今度はカラーシだ!」


「アイツ、マゼンタに初挑戦だろ!? 大丈夫か!?」


「オレはマゼンタに五千ミラ!」


「じゃおれは大穴!  カラーシに一万ミラ!」


「「おおー!」」


 賭け事も盛り上がってるわねぇ。一万ミラもドブに捨てるなんて、私には理解出来ないけど。

 カラーシは笑みを浮かべながら、私に五百ミラコインを見せてきた。


「コイントスと行こうじゃねえか。オレは裏だ」


「いいわよ、私は表ね。アンタが投げなさい」


 そう言うが早いか、親指でコインをはじくカラーシ。

 次の瞬間、彼は拳を握って振り上げ――それが届くより速く私の爪先がカラーシの鳩尾に突き刺さり、吹き飛んでいった。


「楽勝!」

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