番外編 前編 夜を駆ける⑥
取り敢えずシルクはもう大丈夫そう。私は他の子達の頭を撫でてから、外へ繋がる扉の方へ。
「帰りにまた寄るわ。その時に差し入れは持ってくるわね」
「さぁすが、イザベル様〜」
「またね〜」
「次は一緒に寝ようね〜」
可愛い子たちだわ。ほとんど皆ベテランだから……実年齢は私の元の年齢より年上ばかりだけど。
扉を開けて、夜の街へ。相変わらずごった煮で雑多な、それでいて妙に居心地のいい感じ。昼間とは違って混沌としていて、でも混沌が故の秩序が流れる。
前の世界でもよく飲み歩いてたモンよ。
「こっちの世界の方が治安は悪いけど、肉体が肉体だから武器を持ち歩かなくてすむのは楽ね……って、あら」
路地裏を歩く時は、絶対に一人になってはいけない。そして知らない人を助けてはならない。
陽の当たらなくなった路から更に逸れ、月明かりすら避けるモノしか跋扈しないから。
……なんて、夜だから少しセンチな気分になってるのかしらね。私がなんとなしに覗いた路地裏に、オッサンを土下座させてる若者が二人いただけなのに。
「お願いです……家族は、家族だけは……!」
「だから、金出せば良いっつってんだろー?」
「聞き分けが悪いなぁ、良いんだぜ? テメェの息子に払わせても」
「し、しかしこの金が無いと生活が……」
「知らねえっつってんだろクソボケじべらぁ!?」
「なっ、おいどうしぶべらっ!?」
私の蹴り飛ばした空き瓶がバカAに直撃し、続くバカBも蹴り飛ばしたお皿に当たってKOされた。なんでこんな所に皿が落ちてたのかしら。
頭からドクドクと血を流しながら倒れるバカは……格好からして、ホストか何かかしら?
対する土下座してるオッサンは……普通の服。もしかすると、村から街に行商に来たって感じかしら。
「さっさと帰りなさいな。絡まれたら碌なことにならないわよ」
「ひっ、あっ、ありがとうございます……!」
ペコペコとお辞儀をしながら去っていくオッサン。それにしてもホストがオッサンをカツアゲするなんて世も末ね。
私は転がしたホストを引きずって、表通りに放り捨てる。
そしてソっとアザレアの栞を彼らの胸ポケットに挿した。
「運が良ければ、カムカム商会の奴等に見つからないし……祈ることね」
夜の街で、バカを見つけたらこうして栞を挟むことにしている。
勿論許せない犯罪ならレイラちゃん送りか監獄送りだけど、あれくらいならこうしてリリース。
もしカムカム商会のメンツに見つかったら(事情聴取の上)、グレーな職場にご招待。
「これが領地騎士団がいれば楽なんだけどねぇ」
無い物ねだりをしても仕方がない。
まぁ諸々の準備も終わったし、サクッと騎士団も作れるでしょ。




