番外編 前編 夜を駆ける⑤
心得を聞かされたシルクちゃんは、困惑した顔のままだけど……ロータスちゃんの方を見た。何かに縋るような、言葉を期待するような顔で。
「……その、こういう仕事って初めてで……ずっとおっかなびっくりというか、何してるんだろうって気持ちが強かったんですけど……」
「何してるなんて当然、男と寝てるのよ。でもさっきイザベル様が言ってた通り、一切社会的な意義が無いわけじゃない。それでもこんな仕事は嫌だと思うのは当然だけど、あーしらみたいに性に合ってたら笑って過ごせるくらいには気楽なお仕事よ」
「わ、わたしもまた……笑ってお仕事出来ますかね」
「もちろーん。ねぇ、皆?」
振り向くロータスちゃん。ローズちゃんもランタナちゃんも、ガーベラちゃんもマーガレットちゃんも楽しそうに頷く。うんうん、頼りになる先輩がいるってのは良いことね。
ああいうセリフが出たってことは、ロータスちゃん達とコミュニケーションが取れてなかったってことだろうし……これを機に仲良くなって相談出来るようになればいいわね。この仕事を続けるにせよ、早々に昼に戻るにせよ……職場関係が良好であることに越したことは無いから。
「さぁすがロータスちゃん、年の功」
「あーしはまだ二十五歳よ」
「二十五歳と二百十か月でしょ~?」
「まだ二百九か月!」
ツッコミを入れたガーベラちゃんに、ツッコミ返すロータスちゃん。シルクちゃんは指折り数えて「えっ……この見た目で四十二歳……!? 見えない……!」と驚愕している。
そりゃあ、夜の街でも大ベテランなんだから若作りくらいお手の物でしょうに。
私は苦笑しつつ――彼女に会ったら言おうと思っていたことを思い出し、そういえばと話しかける。
「そういえばロータスちゃん、たまたま若返りの魔法石が出来たんだけど……要る?」
「要らないわよ。あーしは常に今が全盛期。今が一番可愛いの。若返るなんて野暮よ」
「……そ。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
ロータスちゃんのセリフに、シルクちゃんが目をキラキラと輝かせる。そしてロータスちゃんの前に行くと、そっと彼女の手を取った。
「わ、わたしもそんなカッコいい年の取り方がしたいです!」
「そう? それならさっさとお金を貯めて、お昼のお仕事に行けるようにがんばりなさいな。そのためのお客さんの取り方は教えてあげる」
包容力があるわねぇ、ママみがあるというか。……正直、ロータスちゃんならこのお店を乗っ取ってしまえそうだけど、そういうことはしないのが彼女の良い所ね。




