番外編 前編 夜を駆ける④
私の言葉に、ぽかんとするシルク。別に難しい話をした覚えはないけれど……まぁ、現状とのすり合わせが難しかったかしら。
もっと別の言葉をかけてあげるべきかしら――と思っていると、ピンクのドレスを着た黄色い髪の女の子……この娼館で一番の古株であるロータスちゃんが私とシルクの間に入った。
「そういえば、シルクちゃんにこのお店の鉄則を言って無かったわねぇ。はい、じゃあローズちゃん!」
ぴっ! と指をさされたのは真っ赤なルージュの女の子。ローズちゃんは笑顔になると、シルクの手を取ってキスをした。
「ひと~つ、若さを武器にしな~い」
「絶対に劣化して、毎年……なんなら毎月上位互換が出てくる武器なんて無いのと一緒。そればっかりに頼った結果、お店でお客さんを取れなくなって、立ちんぼに走って破滅した子はごまんといるわ。次、ランタナちゃん!」
背が低くて黄色いリボンを付けたランタナちゃんは、元気よく手を挙げて答えた。
「はいっ。二つ! お客さんに敬意を払う!」
「この仕事をやってると男が馬鹿に見えてくるんだけどねぇ。二つしか性別が無いのに、片っぽ全部を馬鹿にしてると日常生活で必ずミスするのよ。そうでなくても、密室で二人きりになる相手を馬鹿にしてたら、必ずしっぺ返しを食らうわ。三つ目、ガーベラちゃん」
オレンジ色のドレスを着た、この中で一番髪の毛のボリュームがある女の子は……少し気怠そうに、しかしニヒルな笑みを浮かべてシルクちゃんの鼻をうりうりと指でつついた。
「みっつ、目先の金より自分の評判」
「『あいつは金を払えば何でもする』っていうのは、夜職をしている子にとって最大級の侮辱よ。股を開いて十万ミラ貰うよりも、楽しく話すだけで三万ミラの方が最終的に落としてもらえる額が多くなるの。最後、マーガレットちゃん」
紫色のドレスを着たマーガレットちゃんが、ミニスカートを翻してその場で一回転する。
「四つ、女の子の最大の武器は笑顔! 笑えない客が来たら、飲んで忘れる!」
「涙じゃ男しか動かせないわ。老若男女に効く武器は笑顔! 楽しく過ごして、笑って死ぬために生きてんの。面倒な客は全部お店に任せちゃって、あーしらは常に笑顔でいるのよ!」
いえーい! と拳を突き上げるロータスちゃん。それにつられるようにして、皆笑顔で万歳する。このお店だけ妙にお酒の支出が多いと思ったら、そうやってよく飲み会してるのね。
結構なことじゃない。




