5話――懐悪・悪折②
「ってわけで、やり過ぎたらこうするわよ。分かった?」
部屋を出た私は……後ろから付いてきているマリンにそう声をかける。
オルカは必死過ぎて気づいていなかったようだが、マリンは隣でさっきの光景を見ていた。
あの地獄を。
「下のアレは知らなかったみたいだし、私を助けてくれようとしたから今回は見逃すわ」
マリンは黙ったまま何も反応しない。かなりビビっているようだ。
やった本人である私ですら、怒りに任せてほんの少しやりすぎたかと思っているのだ。端で見ていた彼はさぞショックが大きいだろう。
「ったく、酷いモン見せられたわ」
私はそう吐き捨てて階段を上がる。するとそこには、優雅にお茶を飲むカーリーの姿があった。
「お疲れ様です、イザベル様」
お茶菓子まで用意してまったりモードだ。彼女のそんな呑気な姿を見て、私はちょっと力が抜ける。
「女の子たちは?」
私が尋ねると、カーリーはクッキーを食べながら(箱の感じからしてかなりの高級品ね)、上の階を指さした。
「上で寝かせてます。彼女たちはどうするつもりなんですか?」
「……まぁ、うちで預かるしか無いかしらね」
ため息をつく。
この世界の常識では、麻薬依存症治療の概念は無い。医者も金にならない患者なんて気にしないし、そもそもメソッドも無いだろう。
普通の病気や怪我に対する治療は、魔法がある分前の世界よりも優秀だけどね。
「そんなお金無いですよ?」
「そこはどうにかするわよ。部屋は余ってるし」
アザレア邸にはそれなりに大きい部屋がいくつかあるし、本来なら使用人が住み込みする部屋も空いてる。三十人程度だし、なんとかなるだろう。
カーリーは「了解です〜」と言って残りの紅茶を飲み干した。
そして立ち上がり、首を傾げる。
「そういえばボクに先に戻れって……何してたんですか?」
無邪気な目で問うてくるカーリー。私は一瞬だけ迷ってから、笑顔で首を振った。
「なんでもないわ」
いくら転生者とはいえ、カーリーはまだ子供。あんな光景を見せた後に意味は無いかもしれないが、それでもやはりさっきの地獄を見せることは躊躇われた。
(彼女のことだし、気にしないだろうけど)
この辺は私のわがままだ。
「あの……」
ずっと押し黙っていたマリンが、背後から話しかけてきた。
私が振り向くとーー彼は、一瞬にして地面に両手と頭をこすりつけた。
端的に言うと、ジャンピング土下座である。
「イザベル様……いや、イザベル姐さん! オレを、オレを弟子にしてください!!」
「はぁ!?」
唐突な発言に私が素っ頓狂な声をあげると、マリンはうっとりした表情で私の手を握った。
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