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36話――涙の数だけ強くなりたい⑦

 部屋の中に入って来たのは、カーリー。彼女は指を鳴らすと、ベラをシアンから引き剥がした。


「何やってるんですか、イザベル様! 女の子とみたら見境なく!」


「ちょっ、カーリー?」


 カーリーはベラに馬乗りになると、ぽかぽかとその胸に拳を振り下ろす。

 ベラはベラで困ったような声を出しながらも、やれやれと首を振った。


「落ち着いてカーリー。別にあんたのことを蔑ろにしようってわけじゃ……」


「そんなことは知っています! でも見境なく手を出してることと、まだ日の高いうちからあんなことしたら駄目ですって話をしているんです! シアンさんもシアンさんですよ! まったく、油断していました……あんな風にイザベル様を誘惑して!」


「ちょっまっ!?」


 酷い言いがかりだ。シアンは慌てて立ち上がると、思いっきり手と首を振った。


「わ、わたくしは誘惑なんてしていませんわ!? べ、ベラさんが勝手に……!」


「そうやってどもるところが怪しいです! 全く、ちゃんと許可を取ればボクだってこんなにとやかく言いませんよ! 二人共、謝るまで晩御飯は無しですからね!」


 言いがかりをつけられた挙げ句、晩ごはんを抜かれる。意味不明な上に無茶苦茶だ。

 そのことに再度講義しようとしたところで、ベラがいきなり隣に来て頭を掴んだ。


「ほら、謝るわよシアン! 晩飯抜きはマズイわ、この体超お腹空くもの!」


「ひ、人の体を腹ペコキャラにしないでくださいまし! というか、元々わたくしではなく貴女が悪いのに……!」


「いいから、ほらごめんなさい!」


「ああもう! ご、ごめんなさい!」


 理不尽!

 シアンがぐぬぬと歯を食いしばると、カーリーはやれやれとばかりに肩をすくめた。


「じゃあ晩ごはん出来ましたよ。さっさと食べましょう」


「……あ、案外あっさりですわね」


「いくらボクでも、行きずりの女の人じゃなくてこの館に住む人相手なら怒りませんよ。今のは少し意地悪しただけです」


 ニコッと笑うカーリー。しかしすぐにベラの方を向くと、しゃーと威嚇した。


「でもお外でナンパするのはダメですよ!」


「わ、分かったわよカーリー。じゃあ今日の晩ごはんはなあに?」


 露骨に話をそらした。カーリーも流石に分かっているようだが、これ以上問い詰めるのも面倒だと思ったのかため息をついて踵を返す。


「アクアパッツァとチーズを乗せたバゲットです。バゲットから作りましたよ」


 アクアパッツァ?

 聞き覚えのある料理名――というか、シアンの好物の名前にほんの少しだけ心が踊る。

 シアンが顔をあげると、カーリーはふいっと目をそらした。


「あら、随分凝った料理ね」


「たまたまですよ」


 そう言ったカーリーは、少し恥ずかしそうに早足で部屋から出ていこうとする。


「か、カーリー」


 後ろから声をかけると、彼女は少し恥ずかしそうに唇を尖らせた。


「たまたまです、たまたまですからね! ……じゃあ、さっさと食堂に来てください!」


 ダーッと消えてしまったカーリーを、ベラがぽかんと眺めている。

 その真実を知っているシアンは……少しだけ、笑みを浮かべてしまう。


(自分を許せるまで、ですわね)


 立ち上がって、ぐっと拳を握った。

 本当の意味で自分のために生きる、その決意を固めるために。

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