36話――涙の数だけ強くなりたい⑥
「別にどうもしないのよ。だからって無視してればいいってわけでも無いのよ? 許してもらおうと思わず、でも償いの心は忘れない」
「……利己的な心を捨てて、相手のために尽くせと」
「ノーよ、利己的な心は捨てちゃダメ。自分のために相手を想いなさい」
とても抽象的で、シアンは頭をひねる。ベラは笑みを見せて、よしよしと頭を撫でた。
「利己的な心を捨てるなんて、人間不可能なのよ。それなのに相手のために尽くしていると、絶対に『ここまでしてあげたのに』って思っちゃう。あくまで自分が自分を許せるまで、相手に尽くすの」
相手に許されるまでではなく、自分を許せるまで。
主語を変えられると、すとんと腑に落ちた。
「この世の全ては自分のためよ。された側が『ああ、自分のためにやってくれてるんだ』って思うことはあるけどね」
「じゃあ今……こうしてわたくしを慰めているのも、貴方がやりたいからですの?」
「当たり前じゃない。可愛い女の子を慰めるのは、私にとっては呼吸と同じよ」
……彼女は、欲に忠実だ。しかしそれは、昔の自分と同じなはず……だというのに、何故こうも嫌悪感が無いのだろうか。
出会ったばかりだからだろうか? それとも、魂を入れ替えられるという境遇を共有しているからだろうか?
「大丈夫、大丈夫よ。素直になって、ちゃんと相手を想えれば人間関係の拗れもいつか修復できるわ」
「ベラさん……」
そう言って、ベラがそっと腰を抱き寄せる。そしてゆっくりと顔が近づいてきて――
「って、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!! き、キスしようとしていませんこと!?」
――思いっきり、顔を掴んで引きはがす。
むちゅーっ、とキス顔をしていたベラは眉に皺を寄せてキョトンと首を傾げた。
「なによ、今のはいい流れだったでしょ」
「貴方、わたくしを口説くために今の言葉を並べ立てたんですの!?」
「いえ、言葉は本心よ。それはそれとして唇を奪おうかなと」
「意味が分かりませんわ!? というか、お互い自分の顔なのによくキスしようと思えますわね!?」
「双子百合物だと思えば大丈夫よ」
「言葉が通じていませんわ! 理解し合えませんわ、意味不明ですわぁぁああ!!!」
シアンは彼女の手を振り払おうと暴れるが、ベラはにまにまと笑って抑え込んで来る。
「それじゃあ、いただいちゃおうかしらねぇ」
「こ、心の準備が! せめて、せめて灯りを消してくださいまし!」
「――何やってるんですかぁっ!」




