36話――涙の数だけ強くなりたい⑤
ベラはシアンを撫でながら、やれやれと首を振る。
「言っとくけど、アンタがカーリーにされたことは自業自得だからね? それは忘れちゃダメよ」
釘を刺され、少しシュンとしてしまう。しかしそのまま彼女は優しく撫でながら、あやすようにゆらゆら揺らした。
「でもだからって、同情がゼロな分けじゃない。そういうだけのことよ」
顔を近づけてくるベラ。十六年間付き合ってきた顔だが、いやだからこそ何故か少し安心してしまう。
「好き放題したくて、親から離れる。まぁ、思春期……反抗期なら当たり前のことでもあるわね。私も昔はあったからよく分かるわ」
「……お、同い年じゃないですの」
「その秘密に関しては、後で説明するわね」
秘密……?
魂を入れ替えられるとかいう前代未聞の魔法をかけられたのに、まだなにかあるんだろうか。
シアンがキョトンとしていると、ベラはそっと涙を拭ってくれ。
「よしよし。……心細かったでしょうね。大丈夫、今日から私たちが守ってあげるから」
「……べ、別に守られたくなんて」
「ダメよ、守られなさい。この家にいる限り、お互いのことをキッチリ守るのよ。ここはもうアンタの家なんだから、シアン。いや……二人きりの時くらい、イザベルって呼んだ方がいいかしら?」
自分の、名前。
二度と名乗れぬその名を呼ばれ――ベラに見られてから我慢していた涙が、ついに決壊した。
彼女の胸に飛び込み、何も我慢することなくワンワンと声を上げて泣く。
「うわあぁああぁあぁあ!!」
「あー、はいはい。よしよし。まぁ取り敢えず泣いときなさいな、気が済んだら話するわよ」
シアンを抱きしめたベラは、何故か扉に向けて虫を払うように手を振った。そして何事もなかったかのように、シアンの頭をなでる。
「ひっぐぅっ、ぐっ、あうっ、えう、ああああ!!」
それから三十分以上は泣いていただろうか。泣きつかれてベラに寄りかかっていると、いつの間にかベッドの上に連れて行かれていた。
そしてベッドで彼女に抱きしめられながら、背中をさすられる。
「さっきも言ったけど、アンタは被害者じゃない。でも、一方的に加害者でもなくなった。そういう曖昧な立場だってことは自覚しておきなさいね」
「……分かってますわ」
昔、母に寝かしつけられた時を思い出す。
「許して貰えるでしょうか」
「無理よ。アンタだって、カーリーからされた仕打ちは許せないでしょ?」
端的に言われて、そうだなと納得してしまう。ではいったいどうすればいいのか。




