36話――涙の数だけ強くなりたい③
ちょっと困ったような顔になるマリン。
「ただ、今回は全滅ッスからねぇ。本当に人知れず悪人を成敗してたら噂にもならないッス」
「良くも悪くも、女神が大雑把で好き放題していたからこそ、都市伝説になってたんだろうからね」
なるほど。確かにそのためには、今回の連中を全部レイラちゃんの人体実験に回したのは少しミスだったかしらね。
……いや、雇った商会の方に追い込みをかければイケるわね。
「また女神が悪いこと考えてるよ……」
「都市伝説の一歩目よ。もしコレで裏にも関わってたら、そこを壊滅させるだけでいいんだけど」
「今日潰した連中は、そこそこ裏に根深いヤツらだったッスからね。そことのコネクションがある以上、ちょっと裏に近い所になにかあるッスかもしれないッスよ」
ああ、言われてみればそうなるわね。
つまりアイツらが言っていた「依頼人」に追い込みをかけましょうかね。
そうと決まれば善は急げ、思い立ったが吉日、早起きは三文の得。早速さっきやっつけたクズを連れて、今後はラピスラズリ商会に関わらぬよう説得しにいきましょう。
「説得(物理)ですね分かります」
「平和的に説得(脅迫)出来る薬品、用意しますね」
「説得(暴力)は女神の得意分野だもんね」
「さすが姐さん、口より先に足が出る女!」
「アンタら後で全員正座!」
「5Pですの?」
「6Pでもいいのよこっちは?」
ドサクサに紛れてアホなことを言うシアンを睨むと、彼女はサッと目をそらした。まったく、今夜はこの子を抱き枕にして寝ようかしら。
私は足を組み、いつも通りの口調と表情で――シアン、マティルダさん、モナークさんを眺める。
「騎士団が出来るまでは、今日みたいなことを繰り返してお守りしますので」
私の言葉に、モナークさんが恐る恐るという風に手を上げた。
「……その、ですね。あの……こ、心は痛まないのですか?」
「悪役ですから」
そういうのは正義側の役目。私は悪役令嬢、それもとびっきりの大悪役。
行動原理は欲望を叶えること。
アレが美少女だったなら心も少し痛むかもしれないけど、見苦しいオッサンだったし。
「不要なことはしないけど、その代わり必要なことも躊躇しない。今日のアレは必要だったわ」
完全にドン引くモナークさんにマティルダさん。シアンはなんだか諦めたような表情で首を振る。
……なんか怯えられちゃったけど、これで取り敢えず当初の目的は果たせそうね。
(今夜くらいはちょっとお祝いでもしようかしらね〜)
なんて呑気なことを考えつつ、私はラピスラズリ商会と契約を交わすのであった。




