35話――デンデデン④
「なん……でっ……!?」
ペイワンが絞り出すように呟くと、女はやれやれとばかりに首を振った。
「仕方ないじゃない。急がないと、間に合わなかったかもしれないし」
「死んでなければ治せるから大丈夫ですよ」
「まぁそうなんだけどさ」
そう言いながら、片腕でペイワンの身体を持ち上げる女。そしてまるで豚肉でも見るような目で、口を開いた。
「さ、それじゃあ雇い主を話してくれる? それとも、先に懺悔の言葉でも吐くかしら」
当然と言えば当然の尋問。ペイワンはフッと鼻で笑い、ペッと唾を吐きかけた。
「な、舐めるなよ。これでも長く裏にいるんだ。この程度で言うような奴が、生き残れるわけがねぇ。それに……オレは死んでも懺悔しねぇ、後悔もしねぇ! 好きに生きて、好きに死ぬ! それがオレの生き様だ! ……負けたからにはジタバタしねぇ。さぁ、さっさと殺せよ!」
女はペイワンの唾を躱すと……イマイチ興味がなさそうに首を傾げ、ブチッ! と足を千切ってきた。
「何するのよ、汚いわね」
「ぐがああぁぁぁぁぁぁああああ!!」
凄まじい激痛。ダバダバと血液が落ちて、意識がスッと遠のいていく。
このまま血液を失えば、おそらく死ぬだろう……ペイワンが薄れゆく意識の中、冷静にそう判断したところで――
「えいっ」
――プスッ、と注射を刺された。その瞬間、みるみるうちに血が止まり、ねじれていた手が治っていく。
「なっ……にを……」
「はい、というわけで今回のお薬はこちらです。欠損すら回復する回復役です!」
目の下にクマのある陰気な女が、得意げな表情で注射器を掲げた。それとほぼ同じタイミングで、足がにょっきりと生えてくる。
――赤子のような、小さい小さい脚が。
「……は?」
「まぁ一つだけ欠点があるとすれば、欠損を治した時は……こんな感じで赤ちゃんからやり直しになっちゃうってことだけなんですけど」
「へぇー」
金髪女の方が、のんびりとした声を出しながらペイワンの無事な方の足を引きちぎる。一瞬だけ走る尋常じゃない激痛と、即座に生えてくる小さい脚。
「あらホントね。すぐに生えてくるわ」
「成長スピードは普通と変わらないので、頑張って鍛えてくださいね」
「ぐあああああああ!! ひぃっ、ひぃっ!」
可愛らしく、にこにことした笑顔を見せる陰気女。金髪女は、興味深そうにペイワンの足を見つめる。
そして、実験するかのように小さくなった足も引きちぎった。
そして生える、小さい脚。――ただ切断されるよりも悍ましい光景に、精神が崩れ去りそうになる。
「あああああああ!! ひぃっ、嫌、嫌だ、なん、これ! お、オレの足を! 足を返してくれ、なぁ、なあぁあああ!!!!」
「うるっさいわね」
金髪女は、ペイワンを地面に叩きつける。同時に歯が折れたが……やっぱり、血がすぐに止まる。
無事な両腕で逃げようと地面を這おうとしたところで……女が足を振り上げ、踵落としで両腕も切断されてしまった。
そして生える、新しい……おぞましく小さい腕。
「ぐああああああああああ!! ひぃっ、ひぃっ! はぁっ……あぁっ、ああぁぁ! あああ!!! いっ、あう、ひいいいいい! 手が、手が足がぁ!」




