34話――銀翼の悪役令嬢①
「カップって、なんですの?」
そう言いながら、紅茶の入ったカップを持ち上げるシアン。そんなわけないじゃない。
私はニコッと笑ってから首を振る。
「商品のお代を、分割で受け取る販売方法です。その際にほんの少しだけ手数料を上乗せして売るわけですね」
「つ、つまりただの分割払いじゃありませんのそれ」
まさかのシアンの反応に、少し驚く。なんだ、その辺の概念は彼女も理解してたのね。
マティルダさんもモナークさんも、不思議そうな顔だ。私はもう少し踏み込んだ資料を取り出す。
「分割払いと違う部分は、別の会社が入ることと、現金がすぐに手に入ること。……分割払い、そんなにやらないでしょ? だって面倒だし」
私の問いに、頷くマティルダさん。若くなったから、見てて楽しいわねぇ。
「分割払いは、よほど信頼のあるお得意様から提案があった時のみです」
「でしょ? それって、もったいなくない?」
金は天下の回りもの。買う側は「お金が貯まったらまた来ます」なんて言うけれど、売る側からしたらその一個が生活にかかってくる。貯まるのを待ってるわけにはいかない。
だから売る側は口八丁でなんとか買わせるわけだけど……今度は買う側も、無い袖は振れない。結果、欲しい人と買いたい人と商品の三つが揃っているのに、売れないし買えないなんてことになってしまう。
「そういう時に分割払いか、もしくは他の商会からお金を借りて買うのが一般的だと思うのよね」
「しかしそうは言いますが、その度に他の金貸しから金を借りて来てもらうのは……」
「それに資金繰り的にも、やはりその場で現金をいただけないと厳しいですからね」
汗を拭きながら答えるモナークさんと、苦虫を噛み潰したようなマティルダさん。
それは勿論、理解している。だからこそ、この提案は受け入れてもらえるから。
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「そこで、第三の商会を間に挟ませるの」
そう言って彼女らに見せるのは、普通の支払いと第三の会社を挟んだ時の支払の流れ。
普通ならば、顧客が現金を支払っておしまい。分割でも、顧客が商品を受け取ったあとお金を何度かにわけて受け取るだけ。
一方、第三の会社を挟んだ場合は……売買が成立したら、顧客は商品を受け取り、店は第三の会社から商品の代金を貰う。そして、第三の会社が改めて顧客から分割払いのお金を回収する。
「お客さんはすぐに商品が手に入るし、あんたらは難しい回収業務をやらなくて済む。そしてうちは手数料収入が手に入る。三方よしよ」
「……第三の商会、入ります? 普通に我が商会で分割払いを積極的に打ち出せば良いだけでは?」
シアンがズバッと聞いてくる。仰る通り、ただ売るだけならそれですむ。
「いえ、でも……現金が入るのは話が変わってきます。分割払いを我々が嫌がるのは、売上の見通しが立たないからです」
現代であれば、現金の方が嬉しい理由は更に多々あるけど……この世界なら、一番は売上てもお金が入らないことが一番困る。
前の世界みたいに、銀行から融資を引っ張ってくるって概念が無いから、物を仕入れたかったら売上からお金を出すしか無い。




