33話――見た目は令嬢、頭脳は悪役⑤
マティルダさんはコホンと咳払いしてから、居住まいをただす。そして絶対に離さないと言わんばかりに魔法石を握りしめてから、レイラちゃんを見た。
「コホン。その……あの……」
「謝ってください」
「す、すみませんでした」
頭を下げるマティルダさん。レイラちゃんはわたしの顔を見ると、続けて要求を付け足す。
「ちゃんと私が本物の世界一の錬金術師であると、認めてください」
「……レイラさんは、世界一の錬金術師だと認めます」
そこまで言わせてから、レイラちゃんは「むふー」と息を吐く。だいぶ満足した様子で頷くと、腕を組んだ。
(凄い態度の変わりようねぇ……)
私は若返りたいと思う年齢になる前に死んで転生したから、彼女の喜びを芯から理解出来る分けじゃないけど……でもまぁ、転生してからは「うわ、肌がすごく綺麗」って毎日思ってたから、その差が大きくなったと思えば驚くのも納得ね。
「じゃあ私の作る物が全て本物であると認めて貰ったところで、改めて新しい魔石のご説明をします。と言っても簡単で……」
それから十五分ほど、レイラちゃんの解説が続いた。マティルダさんもモナークさんも、割と前のめりで聞いている。
やっぱり使い方としては、アクセサリーに使う魔石の寿命を伸ばすくらいになるのかしら。
「なるほど、……大きさはこれが限度でしょうか」
「現時点では、これ以上大きくしても回復が釣り合いません。魔石から魔力を調節するなら話は別ですが……そんなことをしても寿命は伸びませんから、結局はこの大きさで使うのがベストかと」
レイラちゃんが話していることは半分くらいしかわからないけど、マティルダさん達は理解しているらしい。
私も魔法関連、もう少し勉強すべきかしらね。
暫くレイラちゃんとの質疑応答が終わり、あらかた納得した様子のマティルダさんとモナークさんは、笑顔を見せた。
「先程の無礼はお許しください。是非、我が商会にそちらの魔石を卸していただけたらと存じます」
「ええ、ええ! こんなに素晴らしいものですから。仰る通り、これはアクセサリー等に使うのが良いでしょうな」
好感触。まぁ、詐欺じゃないなら組むことにデメリットなんて無いものね。
でも、これだけじゃここに来た意味がない。私はニヤッと笑ってから前に身を乗り出した。
「ありがとうございます。……というわけで、今からビジネスのお話です。割賦販売ってご興味ありません?」
「「「カップ?」」」
三人ともキョトーンとした顔になる。そりゃそうよね、聞いたことがない言葉なんだから。
でも概念自体はありふれたものだし、どんな反応するかしらね。
(せっかくレイラちゃんが作ってくれた、イニシアチブを無駄にしないようにしないと)
ニヤリと笑い、心の中でレイラちゃんに感謝する。
交渉で空気は大切だ。この機を逃す手は無いわ。




