33話――見た目は令嬢、頭脳は悪役③
人間の魂や精神……ね。転生してきた私達三人は、間違いなく魂というものが存在するということは実感してるけど、それは錬金術では定義されていない。
だから、賢者の石でも私達をもとに戻すことは出来ないと。
「人体改造の方が簡単なのねぇ」
「そりゃまぁ、物質同士ですし」
そう言ったレイラちゃんは、シアンの持つ魔法石を手に取り、ジッと観察する。
「うーん、これどうも他人を興奮させたりする程度の魔法石ですね。精神の操作というよりも、興奮剤みたいな効果を及ぼす感じでしょうか」
「じゃあ……やっぱり戻れない……」
「はい。少なくとも、私がそれらを観測出来るまでは不可能でしょうね」
無慈悲に言い切るレイラちゃん。カーリー以上の魔法使いか、レイラちゃん以上の錬金術師がいれば別なんでしょうけど……現状、そんな人を見つける暇も無いしねぇ。
愕然としているシアンは置いておいて、マティルダさんはケラケラと笑い出した。
「モナークさんに金を出して見せたのも、結局はただの手品でしょう?」
ピクッとレイラちゃんが眉を上げる。また何でマティルダさんは、レイラちゃんの地雷原でタップダンスをするのか……。
あと手品じゃなくて、魔法だと思うけど。
「後から条件を追加したのがその証拠です。都合が悪くなれば、それは錬金術では出来ないと言い出す。私が何を願っても同じことを言い出すんでしょう? そちらの魔法使いが転移を使えるという情報は入っていますから……大方、私達が言ったことを聞いてから、彼女がどこからか出現させているのでは?」
「そんなことしませんよ。それに精神や魂に干渉することが出来ないと言っただけで、物を出す以外出来ないなんて言ってません。試しに無言でやってみてください」
レイラちゃんに言われたマティルダさんは顎に手を当てて……黙ったまま、『賢者の石』に手をかざす。
そして『賢者の石』が光り……なんとも言えぬ色合いの魔法石が出現した。
肌色とピンクが混じったような、一番近いのは赤ちゃんの頬だろうか。温かみのある色合いの魔法石に変化したそれを、マティルダさんは躊躇いなく使った。
何も言わず、魔法石が起動する。その瞬間マティルダさんの体が光り出し――中から、二十歳くらいの美人なお姉さんが出現した。
「「「なんでそうなった!?」」」
私とモナークさん、そしてシアンが同時に声をあげる。
しかしマティルダさん……ま、マティルダさんなの? とりあえず美人なお姉さんはわなわなと震え、ポケットをまさぐる。
中から出てきた小さめの手鏡を覗き込んで、ショックを受けたようにあんぐりと口を開けた。
「わ、若返ってる!? 本当に若返ってる!? 嘘、え!? いや、え!?」
声はマティルダさんね。若返ったからか、少し高い声になってるけど。
ということは、……大混乱中のマティルダさんが願ったのは、若返りの魔法石ってことかしら。




