32話――空想錬金読本⑦
実際、隣にいるシアンが「ぴえん」とでも言いたげな顔になってしょんぼりとしてしまっている。しかしまぁ、人間の魂だけが入れ替わるなんて普通は想像しないわよね。
私はいつも通り自信満々の笑みを浮かべてから、彼女の言葉にうなずいた。
「なるほど。ということはつまり、そこまでは調べがついてないってことね」
言外に「大した事無いわねー」という意味を含ませながらそう言うと、マティルダさんはむっとした顔になる。前の世界にいた頃だったら、ビジネスの場でこんなこと言おうもんならアウトもアウトだけど、こっちは舐められたら終わりの弱肉強食時代。
煽りには煽りで返しておかないと。
「というか、よく考えたらレイラちゃんの本気を見たらそんなこと思えなくなるわよ。さ、レイラちゃん。さっきの魔法石以外で何か錬金術の説明してあげ……」
私が彼女にそう言って振り向くと……レイラちゃんはジトーッとした目でマティルダさんを睨んでいた。
「ちょ、ちょっとレイラちゃん?」
「こんな典型的な文系に説明してあげる必要、本当にあるんですか……?」
「どうしたのよいきなり」
レイラちゃんは私の手をぎゅっと握り、憤慨した様子でマティルダさんを睨み続ける。
「文系っていうのはいっつもそうなんですよ……! この手の人たちは、結論ありきでそこにたどり着くまでの理論を自分勝手に聞きかじった知識だけで継ぎはぎして話すじゃないですか。錬金術や化学は先に現象があって、それを解明するための物じゃないですか。それを自分が理解出来ないからって論理的じゃないって言うなんてナンセンスなんですよ……!」
「いやあの、ちょっと……レイラちゃん?」
真っ黒なオーラを全身から迸らせるレイラちゃん。どうもさっきまでのやり取りが彼女の地雷を踏みぬいてしまったらしい。
「例えばS波が無いから人工地震だとか言い出すみたいな、そういう自分の知識内に無い物を短絡的に陰謀論やファンタジーに結びつけるところが典型的な文系って感じですよね。起きてる現象が全部、感情と思い込みで変化するとでも考えてるんですか?」
ちょっとその話題はいろんなところに物議を醸しそうだからやめて欲しいんだけど……。
「学生の頃なんて……物理を教えてっていうから、まずは問題文の翻訳の仕方から話したら、途中式と回答を教えろと言われて……一問一答形式で理系の問題を堪えられるはずないのに。一つの公式を覚えるだけで数百パターンの問題を解けるようになるのに、何故その場しのぎで楽をしようとするのか! 理系っていうのは積み重ねなんですよ、起きた出来事を調べるんじゃなくて、積み重ねた先に出来事があるんですよ……!」
「ちょっ、レイラちゃん! 分かった、わかったから一回ストップ!」




