32話――空想錬金読本⑤
人によっては、自惚れに感じるセリフ。でも彼女を知っている身としては、これが事実なのだろうと確信出来る。
私が想像する以上にこれは常識外れの一品らしい。
「ええ、はっきり言って私はそんなものが存在すると信じていません。……この手の詐欺紛いの商品は今まで、何度もプレゼンされました」
ああ、マティルダさんは全く信じてないのね。
さもありなんだし、突飛なことを言われて簡単に信じてたら大きい商会の財務なんて出来ないか。
なんて私はある意味で納得していると……レイラちゃんはカチンと来たような顔でマティルダさんを睨みつけた。
「詐欺ですか」
「ええ。魔法でそう見せるなんて簡単ですからね。調べてもわからない、は常套句ですよ。……ただまぁ、イザベル子爵のご紹介ですから、詐欺ではなく誇大広告だと思っております」
「誇大広告……ですか」
ビリピリした雰囲気を醸し出すレイラちゃん。彼女がこんな風になっているのは初めて見るわ。
一触即発な空間で「まぁまぁ!」と間に入ったのはモナークさんだった。
「マティルダさん、そんなピリピリしないでくださいよぉ。いえね、色々あったのは分かりますし……そんな錬金術に胡散臭さを感じても仕方ないですけど」
「胡散臭い……? 錬金術は科学ですよ。先人が掘り起こした、この世の法則です。自分が理解できないからと言って、十把一絡げに怪しいと決めつけるのは唾棄すべき悪です」
思いの外、高めの火力でキレるレイラちゃん。おお……なんていうか、私にはわかんないけど理系の地雷を踏んづけちゃったのかしら。
とりあえず静観してようと様子を見ていると、マティルダさんがほんの少しだけ嘲笑するように口の端を曲げた。
「錬金術が科学? あんな一流の魔法使いでも理解できないようなものが? 科学と言うなら再現性があるはずです。しかし貴方は自分以外が見ても分からないと申していたじゃありませんか。自分以外の人に出来ない物は科学じゃありませんよ」
「私が作ったものを、自分で見た時は分からないと言ったまでです。ちゃんと説明されれば誰にでも分かります」
ちょっとムキになった様子で言い返すレイラちゃん。それに対してマティルダさんは何も言わず、軽く笑みを浮かべるだけ。
そんなだいぶ冷えた空気の中、またもやモナークさんが間に入り、媚びるように揉み手をした。
「まぁまぁ! そ、そこまで仰るのでしたら今ここで作り方などをご説明いただければどうですか? 元々、使い方や応用方法などを聞く予定でしたし……」
ヘラヘラ、ニヤニヤと気の抜けた顔で煽るように言うモナークさん。それを見たレイラちゃんは、少しだけ据わった目で彼らを睨んだ。
「ーーいいでしょう。ではまずこの……」
「ストップよ、レイラちゃん」




