30話――カラダ返せ④
自分の見栄のためにお金を借りて、部下に迷惑をかける。それだけで十分阿呆なのに、しかもパワハラ。そりゃ復讐くらいされる。
むしろ殺されなかっただけ有情でしょ。
「アンタはカーリーにちゃんと謝る。言っとくけど、アンタが女の子だからここまで譲歩してんのよ?」
「男でしたら、どうなってたんですの?」
「え? ボコボコにして人体実験の材料」
「シンプルに正義側のセリフじゃありませんわ!」
だって悪役令嬢ですもの。
まぁそれはさておき、私はカーリーを手で示す。
「で、どうするの?」
腕を組んでイザベル(真)を睨みつけるカーリー。でも彼女は少しだけ、怯えた表情だ。
……トラウマの相手だから、無理もないわね。
私はジッとイザベル(真)を見ると……彼女は目線を少しそらしてぼそっと口を開いた。
「……申し訳ありませんでしたわ」
「声が小さいです」
一言でバッサリ切るカーリー。イザベル(真)はムキになったような表情で口を開いた。
「〜〜〜〜〜〜〜! も、申し訳ありませんでしたわ! これでよろしくて!?」
顔を真赤にして、やや涙目になりながら謝るイザベル(真)。そんな彼女を見て……カーリーは目をパチクリとさせた。
そして困ったように私の方を見る。原作でしかイザベル(真)を知らない私からしたら愉快な光景でしか無いけど、何年も側で見続けたカーリーからしてみると……。
(色々、思っちゃうんでしょうね)
成人してから死んだ私も、たまに肉体に精神が引っ張られる感覚がある。知識と経験に脳が追いつかないと謂うべきかしらね。
カーリーは10歳で死に、転生して今10歳。額面通りなら実年齢は20歳になるが、彼女から漏れ聞く生前の様子からして真っ当な10年間を過ごしたとは言い難い。
そんな特異な生き方をしている彼女は、おそらく思春期頃をイザベル(真)と過ごしている。上司と部下……に近い関係で。ほとんど恐怖政治を敷かれながら。
そんな上司が今、目の前で新しい上司から地面に埋められた挙げ句謝っている。
私はムカつく上司は自分でしばいたから(そして解雇されかけた)、彼女の気持ちを芯から理解することは出来ないけれど……複雑でしょうね。
(彼女が許さないと思うなら、まぁ帰すだけにしておくかしら)
これが男なら文句なくズタズタにするんだけどね。
数秒、黙ったカーリーは……私の手を握り、少しだけ笑った。
「このままじゃ図が高いんで、土下座とかしてもらえます〜?」
「きぃ〜! 図に乗るんじゃありませんわ! 土下座なんてするわけがないでしょう!?」
「でもボク、イザベルさんのために色々と頑張ってたんですよ?」
「それについては今は感謝しておりますわ! だからと言って土下座までしろと!?」
毛を逆立てた猫のごとく威嚇するイザベル(真)。
高飛車お嬢様の土下座は見たいところだけど、カーリーも謝られたことでホッとした様子というか、一区切りついたのかしら。
魔法でイザベル(真)の靴を脱がせたカーリーは、羽ペンを私から受け取ってくすぐり始める。




