29話――身体を求めて三千里⑦
少しだけ厳しい目つきになるユウちゃん。彼女にしては珍しく、ちょっと怒ってるみたいね。
「マリン、やめなさい」
私が言うと、彼は渋々ナイフを下ろす。
そしてマリンがナイフを収めたので、ユウちゃんも軽く息を吐いて肩から手を放した。
そんな二人を見て……何故か、イザベル(真)は頭を抱えてうずくまる。
「羨ましい……!」
「は?」
彼女は忌々しげに私を睨むと、勢いよくテーブルに手をついた。
「羨ましい……羨ましいですわ! なんですのこの美少女メイドとイケメン執事は! わたくしの時はおばちゃんとおじちゃんしかいなかったんですわよ!? カーリー以外にまともな可愛い子雇えなかったんですわよ!?」
いやそんなこと言われても。
イザベル(真)はユウちゃんの手を取ると、キラキラした目で彼女を見つめる。
「はぁ……いいですわ! そこの二人と違って化粧もバッチリですし、スキンケアも完璧!」
「16歳と10歳に化粧を求めるんじゃないわよ。そっちの方が肌が荒れるわよ」
「年齢にあったスキンケアや化粧があるものですわ。そもそも夜会では化粧もするでしょう?」
……したっけ。カーリーにされたかもしれない。
16歳の肌とか何もしなくてもツヤツヤなんだから、何もしなくていいじゃない……。
「ありがとう。ただぼくも別に……」
「そしてこっちの女の子なんてとても綺麗! 良い肌ですわ……ちょ、ちょっとわたくしにメイクさせてくださいませんこと!?」
「暴走してんじゃないわよ!」
イザベル(真)の頭を叩くと、彼女はテーブルと思いっきりキスしてしまう。鼻っ柱を抑えながら起き上がった彼女は、半泣きで私に食って掛かってきた。
「なにしますの!? わたくしの素材の良さを活かせないメイク、ファッションしか出来ない分際で!」
「やかましいのよ! アンタのファッションの方が素材を活かせてないでしょうが! なんで私の見た目で縦ロールなのよ!」
「このふわふわは、わたくしのアイデンティティですわ!」
「いっちょ前に横文字使ってんじゃないわよ! せいぜいアイアイくらいの知能しか無いくせに!」
「誰が夜行性で目が光るサルですの!」
「なんでちょっと詳しいのよ!」
そこまで知らないわよ、私。
「ああもう、叫んで喉が乾いちゃったじゃない」
「お水をどうぞ〜」
「あら、ありがとう」
横から差し出されたお水を一気飲みし、テーブルに置くーーって、これ持ってきたの誰?
「あ、おかわりはいかがですかー? お連れ様はご注文は……」
「じゃあぼくもコーヒーを」
「オレはオレンジジュースで」




