29話――身体を求めて三千里⑥
流石にそろそろ止めないと。私はイザベル(真)の手を掴み、カーリーの胸ぐらから手を離させる。
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いていられると思いますの!? っていうか、貴方も! 貴方も元に戻れないんですのよ!? なんっ、なんで落ち着いておりますの!?」
ああ、懐かしいわねぇ。言われてみれば、最初の時はこれくらい慌ててたっけ。
そんなことを思いつつ、私はやれやれと首を振った。
「そんなこと言っても、もう元に戻らない物は仕方ないじゃない。私もアンタも、大して魔法なんて使えないし。カーリー以上の魔法使いなんて、アンタ知らないでしょ?」
ため息を付いて、諭しながら言うと……イザベル(真)は髪を振り乱しながらテーブルを叩く。
「むっぐぐぐぐ!! あ、貴方はいいでしょうけども! 貴方は貴族になるんですからね! 得しかしてないでしょう!? ですがわたくしは平民ですのよ! 平民! 毎日働かなくてはならない平民に! これがどれほどの苦労かー!」
「はぁ?」
何言ってるのかしらこいつは。
私はカチンと来て、逆に彼女の胸ぐらを掴む。
「アンタねぇ。アンタが作った借金! いくらあると思ってるの!? 八桁よ八桁!! 普通に生きてて作れる額じゃないわよ!!」
っていうかそもそも、貴族だろうが領主なんだから毎日働きなさいよ。この肉体、どんだけ酷使しても寝たら次の日はピンピンしてるんだから。
「な……あ、貴方は領地の運営をしたことが無いからそんなことを言えるんですわ!」
更に油を注いでくるイザベル(真)。私は彼女の胸ぐらを掴んだまま、ガクガクと頭を揺さぶった。
「領地の運営どころが経済のこと、微塵も理解してないのはアンタでしょうがこのスットコドッコイ!」
「スットコドッコイ!? そ、それに今のわたくしなら、お金を返す手段が……」
「アンタごときが考えた手段なんか大したことないでしょ!」
自分が住んでる土地を崩壊させられたくは無いので、どれだけ不本意でもこいつに実権を戻すわけにはいかない。
私が彼女をぽいっと捨てると、イザベル(真)は怒りに満ちた目でコーヒーを飲み干した。
「ぷはぁ。あっそーですか、分かりましたわ! かくなる上は、実力行使するしか無いようですわね……!」
脅すように彼女がそう言った瞬間ーーマリンとユウちゃんが姿を表す。
そしてマリンがイザベル(真)の首筋にナイフを当てたので、ユウちゃんは一応彼の手を止めた。
「ぴょえ……?」
さっと血の気が引き、間抜けな声を出すイザベル(真)。よく見るとカーリーも、なんか据わった目をしている。
「ユウさん、止めなくても良くないッスか? 姐さんに手ぇ出すって宣言したッスよ」
「事情は聞いているからね。口で言うまでなら、手を出してはダメだよ。相手は女の子だからね」
相変わらず女の子には優しいユウちゃん。
「もっともーーだからといって、ぼくらの女神にその態度はいただけない。今一度、冷静になることをオススメするよ」




