29話――身体を求めて三千里⑤
まぁ原作のイザベルも、お礼くらいは流石に言っていたような気がする。
しかしカーリーは首を振ると、むすっと口を結んでそっぽを向いた。
「いえ、感謝しているイザベルさんは見たことありませんでした。『感謝の言葉を述べている自分』に酔っているだけで……」
「うぐっ……」
ちょっと思い当たる節があるのか、勢いをそがれるイザベル(真)。彼女は話題を変えるように咳払いすると、今度は私の方に視線を向けてきた。
「そ、そんな過去のことはどうでもいいですわ。昨日までの自分は別人!」
「無茶苦茶言うわねぇ。過去を顧みないことは、前向きとは違うのよ?」
「シャラップですわ! とーにーかーく! 今向き合うべき事態はそれでは無いでしょう!? ほら、カーリー! さっさとわたくしを元に戻しなさいですわ!」
「嫌です」
キッパリと言い切るカーリー。ぶんむくれて、そっぽを向いたまま……なんというか、生ごみでも見るような目でイザベル(真)を睨みつける。
「今ボク、前世今世合わせて一番幸せなんです。なんで貴方っていうストレス源の元で、わざわざ働かなくちゃいけないんですか?」
「何を言ってますの! わたくしもこの人も、身分が違って今大変ですのよ!? ほら、ベラさんも何かおっしゃりなさいな!」
私の方に水を向けるイザベル(真)。しかし私が何か反応する前に、カーリーはやれやれと首を振った。
「戻せませんよ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
たっぷり三十秒ほど硬直し、ようやく言葉を絞り出すイザベル(真)。そんな彼女をあざ笑うかのように、カーリーは彼女の目を見た。
「だから、戻せませんよ。ボクの魔法で入れ替わった生き物を、もう一度戻したら……例外なく皆、廃人になりました」
「………………………………………………………………………………………………………………………………い、一体何を言っているんですの?」
目を真ん丸にして、わなわな震えるイザベル(真)。彼女は思いっきりカーリーにつかみかかると、ぐわんぐわんと揺らし出した。
「何を、何を言ってますの!? もどっ、もども、戻せない!? はぁ!? なん、そんな……はぁああああ!?」
「あっはははは!!! イザベルさ~ん? キャラ、崩壊してますよ~??」
アンタもキャラ崩壊してるわよ、カーリー。




