29話――身体を求めて三千里④
メニューが想定よりもはるかに多いことで有名なお店で、スタドがオシャレなティーン向けだとしたら、こっちは少し上の二十から三十代向けくらいのイメージ。
何にせよ、騒ぎになった向こうよりはまだまともに会話出来るでしょうね。
「ここで良い?」
「どこでもいいですけれども、相変わらずカーリーの魔法は酔いますわね。もっと優しく出来ないんですの!?」
私は酔ったこと無いけど、転移酔いなんてあるのね。
カーリーはイザベル(真)の言うことはスルーし、そっぽを向いた。ただいつもの彼女なら言い返すだろうことを考えると……やっぱりいい関係じゃなかったってのは本当みたいね。
「さっさと中入るわよ」
入店を報せるベルを鳴らしながら、お店の中へ。店員さんたちはイザベル(真)の姿にギョッとしているけど、それをスルーして指を三本たてる。
「三人よ」
「あ、空いてるお席にご自由にお座りください……」
お言葉に甘えて、窓際の席へ。コーヒーを頼んでから、改めて私達は向き合った。
「で……あんた、結局イザベルってことでいいの?」
「ええ、その通りですわ。貴方のほうがよくご理解しているのではなくて?」
そりゃ確かに……碌な鏡が無かったからまじまじと見たことは無かったとはいえ、十六年連れ添った私の肉体。見覚えがないなんてことはあり得ない。
ただ……それを差し引いてもこの縦ロールがあまりにもあんまり過ぎて、現実を受け入れ難いのよねぇ。
「コーヒーでございます〜」
「あら、ありがとうございますわ」
店員さんに一礼したイザベル(真)は、優雅な仕草でコーヒーを受け取る。
そして店員さんが下がった後に……これまた絵になるような美しい所作でゆっくりカップを持ち上げた。
「普段は紅茶党ですが……たまにはよろしいですわね、こういうのも」
「確かにここのコーヒー、美味しいのよね。カーリー、お砂糖いる? ……カーリー?」
普段から角砂糖は三つ入れるカーリーにそう問うと……彼女は口をあんぐりと開けて、イザベル(真)の方を見つめていた。
まるでお化けでもみたような表情で。
「イザベル(真)様……が……お礼を言った……!?」
あ、ショックを受けるところそこなんだ。普段どれだけ酷い扱いを受けていたかが察せられるわね……。
今夜はベッドで抱きしめてあげよう……そう決心していると、イザベル(真)はクワッと目を開いて怒り出す。
「失礼じゃありませんこと!? わたくし、前からお礼くらいは言っておりましてよ!?」




