28話――鏡よ鏡⑤
ユウちゃんなんて、性的暴行どころなんてレベルじゃないところまで行く寸前だったのにこの笑顔だもの。本当に戦えなくなっちゃう人がいるのか怪しくなっちゃうわ。
……とも言えないけどね。男女問わず二度と戦えなくなった友達とか、私も知ってるし。
ただまぁ、そこについては私も考えがある。
「ノウハウが欲しいって言ったでしょ? 戦える人……実際の騎士は他で賄えるわ。必要なのは騎士団の運営に携わってた人よ」
「……事務的なことが出来る人がいれば良いと?」
「うん。戦えるに越したことはないけどね」
お金は無いが、数名雇う程度ならなんとかなる。壊滅した騎士団に……事務とはいえ、もう一度騎士をやりたいって人がどれくらいいるか分からないけど。
「じゃあ呼びます……?」
「いや、行きましょう。別にジーナ以外に、私のことをよく知る人なんていないでしょ? それに、ゲーム知ってるから短期間のエミュくらい余裕よ」
そうと決まればこうしちゃいられない。馬車で二、三日かかる距離だ。旅の準備をしなくちゃ。
化粧道具とか、着替えとか、暇つぶしのオセロとかトランプとか……。
「って、いやいや。イザベル様、それだけじゃないんですよ大変なことは」
「え? あ、ああ、そうだったわね」
そういえば彼女は手紙を二通持っていた。そして冷静に考えてみれば……ジーナの件は、重要なことではあるが大慌てになるほどのことでも無い。
迅速な対処は必要だけど、その対処と言うのも決断だけだ。特別なにかしなくちゃならなかったわけではない。
「本命はこっちか……」
と言っても、さっきの手紙ほど分厚くない。便箋の中には一枚ハガキが入っているだけのようだ。
私は既に開いているそれから中身を取り出し……。
「……なにこれ」
思いっきり眉を潜めてしまう。
そこに書かれていたのはたった一文。しかしそのたった一文は、今の私達の生活を確実に一変させる力がある。
ユウちゃんも気になってこちらを覗き込み……そして神妙な表情になった。
「女神、心当たりは?」
「一人しかいないわ」
しかしまぁ、なんで今更。
これが来るとしたらもっと前ーーそれこそ、一週間かそこらだと思っていた。
まるで来ないから油断していたら、この始末。これだけ溜めてたってことは、何かあるんでしょうね。
私はベッドから降りると、パンと手を鳴らした。
「カーリー、ユウちゃん。二人を呼んできて、作戦会議するわよ」
「は、はい」
「了解だよ、女神」
私は不穏な手紙をそのへんのテーブルに置き、一つ伸びをする。
『イザベル・アザレア。カーリー・パウエル。貴方達の秘密を知っている。明日正午、ミスタードッグスコーヒーの前で待つ』
私達二人を名指しなんて、アイツしかいないからね。




