28話――鏡よ鏡③
彼女の言う通り、中身を見てみると……ざっくり言えば、『会いたいから来て欲しい。忙しいならこっちから行く』という内容だった。
特段問題ないような感じだけど……文体が少し妙というか。
「なんというか、妙に馴れ馴れしい文章ね」
『お久しぶりです、イザベル様。ここ最近、お会いできずに寂しいですわ。そうそう、良いお紅茶が手に入ったのでお贈りしますね。気に入っていただけると良いのですが……。また以前のように、美味しいお紅茶について語り合いたいです。
そう思ったらいても立ってもいられませんので、以前はそちらへお伺いしたので今回はお越しいただけますでしょうか? 勿論、お忙しいでしょうからまたわたしが向かいます。お会いできるのを楽しみにしておりますね』
原作ゲームの感じだと、もう少し堅苦し印象だった。まぁでも友達に対する距離感ならこんなもんなのかしらね。
なんて呑気なことを考えていたら、後ろから手紙を覗き込んでいたユウちゃんが、神妙な顔つきになる。
「カナリバーの家は……確か男爵家だったよね、カーリーちゃん」
「はい」
ガーワンのところが伯爵で、アザレア家は子爵。特殊な爵位である公爵を除けば、伯爵は上から二番目、子爵は三番目。
そして男爵は子爵の次で……一代限りである準男爵、騎士爵を除けば一番下の爵位となる。
「うちと同じだからね、覚えているよ。……仮に友人だとしても、子爵家に対して文書でこの言葉遣いはいただけないね」
「ああ……」
手紙などの文書は残る。それ故に基本的に相手の立場を考えて書くのが通例だ。
私だって面と向かえばガースリーに対していつも通り喋るけども、人前や文書上では子爵家と伯爵家の会話となる。
「呼びつけるのだってあり得ないよ。来て欲しいなら、相応の手続きとお礼がいる。上から行くのだって、それなりに手続きがいるのに」
「まぁ言われてみればそうね。私が気にしないというよりも、そういうルールだし」
地球の中世がどうだったかなんて知らないが、少なくともこの国ではやっちゃいけないルールになっている。マナー違反ではなく、ルール違反。
簡単に言ってしまえばトラブルを避けるためなんだけど、迎え入れる側にも相応の準備がいるし、こんな友達と遊ぶ感覚で呼んだりしてはいけないのはその通りね。
「それでもうイザベル様もご理解いただけたかもしれないんですけど……彼女、イザベル様の友達なんですよ」
「……ああ、私が偽物だって分かっちゃうってことね」
しかも行かないと言えば来てしまう。




