27話――アブサン~のんべ竜⑥
「新事業を興したい関係で、人手が足らないのよ。うちの館で働いてくれたら、私の管理してるお店の一部を任せられるし……信金のこともあるからお金勘定に強い子が欲しいのよ」
まさか自分が勧誘されると思っていなかったのか、アビゲイルは目を白黒させている。
彼女は自分の父に視線をやると……その目を向けられたジルは、困ったように眉を八の字にした。
「うむむ……ワシは良いんじゃが嫁がなんというか」
「あら、お母さんは娘さんの職業選択の自由を認めない感じ?」
「イザベル様、こっちの世界には職業選択の自由は基本ありませんよ」
カーリーに訂正される。そういえば、こっちはそんなもん無かったわね。身分制度があるし、資格関連もあんまり無いし。
親の事業を継がされるのは当たり前だし、親に命令されて奉公に行くのも当たり前。そもそも女の子が強制的に嫁に出されないほうが珍しい。
まぁそれが嫌で家を出る子は男女問わずいるけどね。
「いやまぁワシか悪いんじゃが……ワシ、強いじゃろ?」
「そうね」
「じゃから金に関して無頓着でな……若い頃から金の管理を一人でやったことが無い」
「それどころか、母がいないと自分の持ち物に対する頓着すらなくなって……母と共にいなかった日は、野宿中によく身ぐるみを剥がされていたらしく……」
いやなんで超級とかになった人がそんなバカなのよ。
……と、言いたいところだけど、強すぎて「脅威」を感じることがまるで無いんでしょうね。
人間として必要な危機意識というか危機感というか……そういったものが欠落している印象がある。人間とは別の生き物って感じ。
もしかすると、さっき私の攻撃をノーガードで受けたのは、威嚇のためでも牽制のためでもなく……反射的に受けるほどの脅威を感じなかったからかもしれない。
刺突は有効みたいだけど(だから私のヒールの蹴りは防いでた)、打撃はホントにダメージ通らなかったし。
「娘さんがいない頃は、奥さんがその辺のマネジメント全部やってくれてたわけ?」
「幼馴染じゃからな。とはいえ、嫁もそれなりの年齢じゃからワシとの旅にはついてこれんし」
幼馴染とそのまま結婚したのね。年齢が同じくらいだとしたら……まぁ流石に旅に同行はできないか。
そしてアビゲイルの方もあまり乗り気じゃない様子。私は仕方なく、ため息をついた。
「それなら仕方ないわ。その代わり、マータイサに来た時は必ず我が家に顔を出してちょうだいね」
「そ、それは勿論!」
私の代案に目を輝かせるアビゲイル。ホッとしたのか、それとも別の理由か。




