27話――アブサン~のんべ竜⑤
私が言うと、ジルはニヤリと笑みを深める。面白そうに、楽しそうに。
「そこまで言うってことは、ワシを動かせるだけの報酬を用意出来ると?」
腕を組み、自信満々に胸を張るジルに対して――私は、キョトンとした顔を返す。
「え、なんでアンタを動かさないといけないのよ。娘さんの就職に口を出すタイプ?」
首を傾げてみせると、ジルは……何を言っているのか分からないと言わんばかりの顔に。私は彼がフリーズしている間に、アビゲイルの手を取った。
「アビゲイル、あなたよ。可愛いし、こんなヤバい人の手綱を握ってるだけでもしっかりしてるのが分かるし……しかもお金勘定のマネジメントもしてるんでしょ? ピッタリよ!」
「えっ、あっ、いやあの、え?」
アビゲイルはあわあわと目を泳がせ、ジルの方を見る。しかし私はグイっと手を引き、テーブルに身を乗り出した。
彼女の白い肌が徐々に朱に染まっていく。金髪碧眼の美少女が赤くなる姿って、どうしてこうも可愛いのかしらね。
「父じゃ……ないんですか? えっ、あの、強いですよっ!? ドラゴンが街に来ても追い返せますよ!」
「この領地には私がいんのよ。ドラゴンが何十体来ようが、全滅させて皮を剥いで売り飛ばしてやるわ」
被害をゼロにすることは出来ないかもしれないけど、ドラゴン一体なら人的被害ゼロで抑え込んで見せるわ。
私が自信満々にそう言うと……フリーズが解除されたジルが自分のことを指さす。
「ワシじゃないのか?」
「なんでむさ苦しいオッサンを雇わなきゃなんないのよ。我が家が能力重視よ――そして容姿も本人の能力。かわいい子はそれだけで一次選考通過だし、可愛くて有能なら合格一直線よ」
ジルを一度睨み、再度アビゲイルを口説こうとしたところで……カーリーとユウちゃんから両肩に手を置かれた。
「女神、あんまり口説きすぎると僕もカーリーちゃんも嫉妬しちゃうよ?」
「別にボクは嫉妬なんてしてませんよ? してませんけど、ちょっと可愛い子をみたらすぐに口説くのは止めてください」
「……すぐに、って。アンタたちの前で殆どやってないじゃない」
「夜とか街に出てナンパしてるの知ってるんですよ!?」
後ろでマリンが「あの激務の合間にナンパしに行くとかどんなバイタリティしてるんすか……パネェっす姐さん」とか言って尊敬のまなざしを向けている。やめて、別にナンパしてるんじゃないのよ。ただちょっと夜の街を歩いてるだけなの……そしてヤバいのに絡まれてる女の子を助けてるだけなの……。
私の夜遊びは置いておいて。一つ咳払いしてから二人の手を外した。




