26話――DRAGONTAIL⑧
高く高く飛んでいく竜巻。そしてそれが空中で霧散するのを見てから、お爺さんの方を睨みつけた。
「人が巻き込まれたらどうすんのよ」
「じゃから人がおらん方に撃ったじゃろ」
「いくら山ん中って言っても、別に人っ子一人いないわけじゃないのよ?」
そう言って大きくため息をつく。というか今のは……危なかった。私じゃなかったら死んでたでしょうね。
飄々としたお爺さんは……今のでもう戦う気は無くなった様子。剣をしまったので、私も構えを解いた。
そのタイミングで――金髪ツインテールの子がこちらへダッシュ。そしてお爺さんの後頭部を思いっきりひっぱたいた。
「だからぁ! なんで話す前に手を出しちゃうかなあ!」
「ふぁっふぁっ。別に構わんじゃろう。ワシを殺せる輩も、ワシを繋いでおける牢も無い」
「だから自制が大事ってさんざん言ってるのお父さんでしょ!?」
なんというか、苦労してそうな子ね。
私は長く息を吐いて、その場に座り込んだ。
「イザベル様!」
「女神! 大丈夫かい!?」
「姐さん!」
三人が駆け寄ってくる。私は取り敢えず笑顔で頷き、無事をアピール。そして地面であぐらをかいて、髪を手櫛で整える。
「しかしまぁ、超級って凄いわね。私が本気でやらなきゃ攻撃も通らなそう。ほら見て? 髪の毛がだいぶぼさぼさになっちゃった」
「いや今のやり取りの後に真っ先に気にするのがそれッスか」
「そもそも超級相手に手加減しようって発想になる女神が怖いよ……」
手加減というよりも、やっぱり気乗りしなかったのが一番かしらね。最後の攻撃だけはマズいと思ったけど……それも周囲に被害が出る可能性があったからだし。
私は空を見上げながら、ぎゃーぎゃーやり取りしてる親子を見る。
「ああもう! そもそも名乗るくらいしてよお父さん!」
「んん? ああ、名乗ってなかったか。ふぁっふぁっふぁ」
豪快に笑うお爺さん。そんな彼らを見て、ユウちゃんが苦笑する。
「流石にここまですれば、誰かは分かるね。ジル翁だろう」
「あら、知ってるのユウちゃん」
私が問い返すと、彼女はなんともいえない笑みと共に頷く。これだけ強いんだから、有名人と言われたらさもありなんって感じだけど。
「超級冒険者は例外なく有名人だけど、彼はその中でも更に有名なんだよ。何せトップクラスの実力を持つだけじゃなくて、現在の超級冒険者の中でも最年長だからね」
お爺さんだなとは思っていたけど、最年長なのね。
その事実に少なからず驚いていると、マリンガ後ろでポンと手を打った。
「ジル翁って、『竜喰』のことッスか。確かに有名人ッスよね……超級の中でもトップクラスの実力を持つって」
「ああ、そうか。冒険者同士じゃないならそっちの名前の方が有名だね。そうだよ、彼が……竜を主食にしていると言われているほど狩り尽くしている男、『竜喰』のジル・ウォンだ」
竜を食べるって……食べれるものなのかしら。でもトカゲみたいな爬虫類って食べていると以外に美味しいらしいし……。
なんて私たちが益体も無い話をしていると、向こうでは話が決着したらしい。ツインテールの子が全力ダッシュしてきて、私に頭を下げた。
「どうか、説明させてくださいっ! あの、決して喧嘩を売りに来たわけじゃないんです!」
……あの状況で、喧嘩を売りに来ていない――っていうのに無理があると思うのだけれど。




