26話――DRAGONTAIL⑦
私は納得しつつ、お爺さんを見る。彼は大剣を抜き放つと、無造作に振り下ろしてきた。
バックステップして回避し、お爺さんの膝に蹴りを当てる。今度もまたヒールが突き刺さったようだけど……膝が折れていない。
だいぶ頑丈ね、この人。……人なのかしら。
「ワシの体に穴を開けるなんて、お嬢ちゃんは本当に人かい?」
「失礼な。どっからどうみてもレディでしょうが!」
「形はそうでも中身がのぅ」
私の中身なんて誰がどう見ても普通の女の子だっていうのに。
ため息をついて、私はお爺さんの腹を駆け上がり……顎に後方宙返り飛び蹴りをぶち込んだ。
さしもの超級冒険者も、たたらを踏んで後退する。そして膝をついたところに距離を詰め、その勢いのまま相手の膝を踏み台にして抑え――膝蹴りを顔面にぶち込んだ。
「閃光魔術。実戦で出したのは久々ね」
お爺さんは四メートルくらい吹っ飛び、その場に倒れる。しかしすぐに回復すると、楽しそうに笑みを浮かべた。
「ふぁっふぁっ。なんで本気を出さん?」
「殺気が無い相手とやるのってどうにも気が抜けるのよ。殺す気はないんでしょ?」
どうにも飄々としていて、今ひとつ気が乗らない。娘さんは可愛いからちょっと欲しいけど、だからって再起不能になるまで叩きのめすほどじゃない。
そう思いながら、構えを解くと……彼はむしろ楽しそうに笑った。ただその目はほんの少し困った様子だ。
「ふぁっふぁっ! しかしそれでは、依頼をこなせんでなぁ。仕方なし、あー……もう少しこっちか」
お爺さんは周囲を確認すると、少し横に移動する。そして満足そうに頷くとーー両腕の剣を上げた。
上半身を捻り、全身の筋肉が盛り上がる。目を見開き、口を開き……捻ってためた力を解き放った。
「一体なにを……?」
その瞬間、六階建てのビルすら飲み込まんほどの巨大な竜巻が出現。それが意思を持ったようにうねりながら私の方へ迫ってきた。
「――ッ!?」
無茶苦茶なことを……!
竜巻はよく見ると、バチバチと稲妻が走っている。それが彼の能力なのか、それとも物理現象なのかは分からない。でもとにかく、これを回避したらとんでもない被害が出る!
仕方ない、私はあまりやりたくなかった奥の手を使い――そのまま竜巻へ突っ込んだ。
「イザベル様!」
「女神!」
二人の心配する声。私はそれを聞いてほんの少しだけ笑ってから……力付くで竜巻を蹴り上げた。




