24話――大乱闘のあとしまつ⑥
そういやこいつ、女と見ると見境ないって設定あったわね。
しかも今の話……こいつ、改造人間を取り押さえた?
(相当な実力者っていうのは、嘘じゃ無さそうね)
私が少し警戒した目で彼を見ると……スッと、ロットは気まずそうに目を逸らした。
何故――と思っていると、彼はほんの少し逡巡してから、何やら良いことでも思いついたと言わんばかりに、私の手を取った。
「いえ、あまりの美しさに少し緊張していただけです。こほん、改めまして! ロット・ランスと申します。イザベル様、どうかお見仕切りおきを」
ぎこちない喋り方。原作ゲームだともう少し流暢に……というか調子に乗った感じで喋ってなかったかしら。
私がそんな感想を抱いていても、彼の言葉は止まらない。
「……それにしてもなんとお美しい。まるでのに咲くバラのよう。……麗しいお嬢様、如何でしょうか。私と一緒に――」
「――やめてください、ロットさん。イザベル様が困ってらっしゃいます」
私が手をやんわり振りはらつ寸前、ガースリーが割って入った。
そして彼の手を掴むと、無理やり握手する。その手にはどうも、かなり力が入れられているようだ。
「よろしくお願いします、ロットさん。……イザベル様は子爵ですよ。身分というものをご存知ですか?」
なんで若干、ガースリーは喧嘩腰なのかしら。
私が不思議がっていると……唐突にカーリーが透明化を解除した。何故かユウちゃんに羽交い締めされたまま。
「どうされましたか? ふたりとも」
人前なので、二人に対しても貴族モードで対応すると、ユウちゃんが苦笑しながら反応する。
「お疲れ様です、御主人様。その、カーリーさんが突然暴れまして……」
「お疲れ様ですイザベル様! ダメですよ、こんな人と会話しては!」
ちゃんと二人とも人前での口調になっているが……カーリーは敵意剥き出しでロットを睨んでいる。彼女、ロットのアンチだったのかしら。
いきなりこんな人扱いされたロットの方はと言うと、さっとガースリーから手を放して私の方を見た。
「これはその、失礼しました」
「いえいえ。カーリー、ダメですよ」
私が言うと、カーリーは不服そうにしながらも黙った。
すると彼が引き下がったのが珍しいのか、ジュリアンが目を丸くする。
「本当に珍しいな。熱でもあるのか?」
「まさか、ご心配なく」
スッと引いた彼の前に、ガースリーとカーリーが立ちはだかる。
なんか可愛いわねえ、この子たち。
なんてほっこりしている場合でもない。私は咳払いしてから、ジュリアンたちに話しかける。
「ロットさんをご紹介くださりありがとうございました。――それで、我々はこの後どうすればよろしいのですか?」
「ガーワン様の聴取が終わり次第、王都に連行します。……貴族ですので、連行と言っても軟禁のような形になりますが」
ディランが汗をかきながら言う。そういえば、貴族の扱い的に監禁は出来ないんだったわね。今後は爵位を剥奪で地方の居城に軟禁ってところになるのかしら。
「その聴取が終わるまでは、少々待っとってください。終わりましたら、最後に必要書類にサインをもろて終わりですわ」
「ではすぐに終わらせてまいりますので……今暫くお待ち下さい。ロット、お二人を頼むぞ」
そう言って出ていく三人。ロットは私達の見張りか。
「(なんで見張りがつくんでしょうか)」
「(まぁ物的証拠が微妙だから、逮捕に慎重になってるんでしょうね。私達が結託して捏造しているとも限らない。だから暫くはボロをださないか見張るんでしょうね。……それはそうと、ガースリー。話の続きよ)」




