24話――大乱闘のあとしまつ③
だが、昨夜の騒動でガーツーの奥さんからの証言を手に入れてしまった。つまり彼も犯罪者として引き渡せるようになったのだ。
家督を持つ者が犯罪者であっては、貴族社会の沽券にかかわる。そのため、彼の長男であるガースリーが家督を継ぐしかない。
そうでなくとも、裁判中は領地経営は出来ない。誰かがやらねば、領地が放置されることになってしまう。それは絶対に避けねばならない。
「想定外のラッキーだったわ。アンタは正式に家督を継いだと言えるんだから」
諸々の……暴力で簒奪した場合について回る面倒ごとを全部回避できる。願っても無いラッキーだ。
無論、裁判の結果如何じゃどうなるか分からないけど……他家とはいえ同じ貴族に拷問を施しましたは圧倒的に悪辣が過ぎる。
ちなみに裁判の間は昨夜の拷問の結果は思い出せないように、レイラちゃんが記憶に改竄を施してくれた。裁判が終われば昨夜の恐怖を再度思い出すから、アフターケアもばっちり。
「いやぁ、悪役令嬢の面目躍如ね」
「またまた。……イザベル様は、主人公ですよ。オレにとっては……どんな英雄譚の英雄よりも、輝いて見えます」
「あら、買い被りよ」
ガースリーの顔を見ずに答える。そう、私は悪役令嬢。ただの村娘だったのに、一夜で貧乏くじを引かされた可哀そうな乙女。
でも悪役令嬢――主人公じゃない。
この世界の主人公は、まだ表舞台に出てきていない。
「まぁでも、そう言ってくれるだけ嬉しいわ」
私達がそんな話をしていると……メイドと執事が止まった。応接間だろう、私達も最初にこの屋敷に来た時は通された。
「ご主人様、イザベル様。中にジュリアン・ロジャース様とカーソン・モラレス様、ディラン・コックス様がお待ちです」
ジュリアンとカーソンね、名前負けしてなければいいんだけど。
なんて思いながら扉を開けると……そこには厳めしい面をした眼帯の男性、小太りで細目の男性、そして最後におどおどした雰囲気のオールバックの男性。三人ともスーツを着ているし、彼らが長官たちだろう。
後ろには騎士が三人立っており、その中の一人……紫髪の男がちらっとこちらを見ると、何故か驚いたように目を見開く。そしてさらに、私の後ろをじっと見て嫌そうに顔を顰めた。
(あら、カーリーたちがいることがバレた? うーん、でも魔法使いっぽい雰囲気じゃないし……っていうか、どこかで見たことがあるような)
どうしてだろうと思っていると、三人のスーツ姿の男性が立ち上がってこちらに挨拶してくる。
「第一騎士団長官、ジュリアン・ロジャース。よしなに」
眼帯の男が立ち上がってこちらへ礼をする。筋骨隆々で……ユウちゃんよりも十センチ以上大きいわね。どう見てもカタギじゃない目つき、節くれだった指、潰れた耳。……今日来てるのは文官のトップって聞いてたんだけど、間違っていたかしら。どう見ても後ろにいる騎士より強そう、ってか怖い。
そんな彼のお尻を叩きながら、小太りの男性がため息をつく。
「なんでそんな陰気やねん、お前さんは。こら申し訳ない、お二人とも。ワイは第二騎士団長官の、カーソン・モラレスって言います」
「……カーソン、私は陰気ではない」
「どう見ても陰気や。若い子ら引いてもうてるやん」
なんというか、陽気なおっさんねぇ。西の方言だし、あの怖そうなジュリアンと随分気安そう。目が細くて小太り、ジュリアンと違ってあんまり強そうじゃないけど……何というか、こちらもただものじゃない雰囲気を醸し出している。二人とも五十代くらいかしらね。
そして最後、苦労人っぽいオールバックの三十代くらいの男性が汗を拭きながら挨拶してくる。
「わ、私はディラン・コックスと申します。その……あの、議会を代表してまいりました」
彼がユウちゃんの言っていた人ね。目の下の隈、私とあまり変わらない身長。だいぶ緊張しているようだし、きつそうねぇ。




