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23話――領主様”拷問”の時間です④

 あれだけやっても、スッキリはしないのよねぇ。

 女の子を傷つけたってだけで万死に値するけれど、こうして復讐してもその子たちの時間が戻るわけじゃない。ゴブリンキングの時と違って……この世にいない被害者もいるし。

 せめて……せめて一番苦しんだであろう二人には、ちゃんと復讐して欲しいわね。


「いやまぁ、殆ど姐さんがスッとするためにやったッスよね?」


「勘のいいガキは嫌いじゃないわ」


 だってあいつ、本格的に最低なんだもの。

 なんて会話をしながらカーリーたちの所へ戻ると……そこでは、ユウちゃん達が火を点けた木を大量に放り投げているところだった。


「やっほー。どんな感じ?」


「あー、だいぶいい感じですよ」


 カーリーの視線の先には……真っ白で何も見えない穴。そこでは怨嗟の声や憎悪の叫びがこだましている。

 ここに全員集まっているとは思いにくいが……ガースリーはここにいるし、ガーワンの身柄も確保している。最悪フレディは殺しきれなくてもまあ問題無いか。


「でもしっかり集まってるわねぇ。隠れてるやつも見つけれてるの?」


「うん、女神が戦っている間にマリンくんちゃんが大分見つけてくれたからね」


「マリンが?」


 我らが男の娘メイドに、そんな技能があるのかしら。彼の方を見てみると、見たかとでも言わんばかりに腕を組んでいた。


「彼の隠密スキルと索敵スキルは非常に高いよ。恐らく……無意識なんだろうけれど、僕ら以上に『勘』が良い」


「『勘』?」


「うん。彼は……僕らと違って裏社会で人間ばかり相手にしていたからなのかな。人を察知する感覚が非常に高いみたいでね」


「例えば、今だって分かるッスよ。三時の方向、四人ッス」


 彼がそう言って指さすと――カーリーはそれを見て、指を鳴らす。


「『チェンジ』」


 すると次の瞬間、四人のフレディが穴の真上に現れた。


「あぁあああああああああ!!!」


「イザベル……貴女は必ず……必ず私が殺します……!」


 思い思いの呪詛を吐きながら落ちていくフレディ。何も出来ずに落ちていくだけでも面白いのに、今際の際に出るセリフがそれなのが余計に面白い。

 そんな光景を見ながら、マリンが呟く。


「あくまで観察して思ったことなんスけど……どうもこいつら、一定以上遠くへ行けないっぽいんスよね」


「ああ、そうなの」


 でもなるほど、確かにそれくらいの弱点が無かったら一瞬で領地の一つや二つ簡単に制圧出来ちゃうものね。

 穴の中は既に真っ白で、煙で埋まっている。一定以上遠くへ行けない制約があって、逃げられないんだから……もうこのまま放置しておけばいいかしら。


「いやー、でも朝になったら一人に戻るんですよねー? それなら、一人だけ遠くにいる奴に統合されたりしたら……」


「あ、そうか。それなら一人ずつ捕まえに行かないといけないわね。……面倒な」


 と、こうやって私たちがフレディの対応策について話していると……ガースリーが恐る恐るという風に私に話しかけてくる。


「あの……け、結局これからオレはどうすれば……」


「え? いや普通にガーワンとガーツーを騎士団に突き出して、アンタが政治すればいいじゃない。っていうか、それしか無いわよ。私はアイツを突き出すつもり満々だから」


 私が言うと……ガースリーは少しだけ悔しそうに俯き、唇を噛んだ。


「……でも、オレはきっと……家の人に、誰にも言うことを聞いて貰えません。あのギルバートさんだって祖父の側だった! だから、きっと……」


 ああ、なるほど。

 私はガースリーのおでこを指で弾き、胸倉を掴む。


「何情けないこと言ってんのよ! 私なんて自力で動かせる面子、ここにいる子たちだけよ!? 後は外注、金で雇ってんの!」


 トミサに作った信金も、今我が家の重要な資金源になってるカムカム商会の娼館も、屋敷の管理の一部も全部金で雇っている。


「親から引き継いで働いてくれていた人も辞めてったから、自力で雇い直してんの! そうやって運営していくのよ! 何でもかんでもおさがりでやろうとしない! むしろ男なんだから、親の雇ってた人間総入れ替えくらいの甲斐性見せなさい!!」


 私の叫びに、ハッとした表情になるガースリー。そしてグッと唇を噛むと……私の目を真剣に見返してきた。


「今……辛いですか、イザベル様」


「あー、そりゃ辛いわよ。せっかくそれなりに安定した生活してたのに……どっかの誰かさんのせいで、ベリーハードモードにぶち込まれたからね」


 そう言ってどっかの誰かさんはそっぽを向いてタコの真似をする。そんな彼女を愛おしく思いながら、私は彼の目を見た。


「でも、楽しいわよ」


 自信を持って、胸を張ってそう言える。

 親の用意してくれたレールや、道のりを進むことが間違いだなんてことは無い。むしろ使える物は使うべきだし、そういう人生だからって楽だなんて決して無いから。

 でも、だからって『その生き方以外自分には出来ない』って思うのもまた違う。

 一番大事なのは、自分の人生であるという自覚を持つこと。


「自分の人生なんだもの、自分以外責任をとれないのは当然。――今回、アンタは期せずして私に巻き込まれたわ。だから今、私を倒してガーワンを擁立し直して……彼の作ってくれたレールに戻ることだってできる」


 やれるかどうかは別としてね。

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