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23話――領主様”拷問”の時間です①

「へぇ、便利なものねその薬。ガーワンが一つも動けないじゃない」


「はい、本当は別のお薬……別の部位の感覚を別の部位に与える薬を作っていた時の副産物なんですけど」


「何に使うのよそんな薬」


「……ふふっ」


 遠く……意識の向こうから女の会話が聞こえてくる。

 一つはイザベルの声、もう一つは彼女の従者の声だろう。

 そこまで考えたところでーーガーワンは自分が椅子に座らされていることに気づいた。

 勢いよく目を開けるが、体が動かない。何故と混乱する間もなく、イザベルがこちらに気づいて話しかけてきた。


「ほーら、起きなさい」


 ばしゃり、と水をかけられる。全身に冷たい水が浴びせられ、強制的に脳を覚醒させられる。


「ここは……いや、これは……い、イザベル!? くっ、何故動けん! 離せ、離せぇ!」


 首を振って抵抗するが、やはり体が動かない。『組織』から転生させられてから鍛えてきた肉体が、改造人間と合体した肉体が、微動だにしない。

 何故だ、何故だ。

 目の前にいるイザベルが、にんまりと笑みを浮かべた。


「ざまぁ無いわね、ガーワン。アンタは負けたの。分かるー? 豊富な資金と確かな地盤、そして何より周囲を悉く陥れるだけの策略……それら全部、まとめて私に通用せずに負けたのよ!」


 どうだと言わんばかりに胸を張るイザベル。彼女は椅子に座るガーワンの顔を叩くと、楽しそうな声をあげる。



 ガーワンは悔しさのあまり歯ぎしりしながらイザベルを睨むが……それ以上、何も出来ない。


「いやー、気持ちいいわねぇ。何にも出来ない馬鹿が、見上げるしかないって状況。――アンタも好きでしょ? こういうの。だから今の私の気持ち、わかってくれると思うんだけど」


「ぐっ! ぶっ!?」


 ガーワンの座っていた椅子を蹴とばすイザベル。肉体を動かせない状態で支えを失い、地面に倒れこむガーワン。苛立ちながら彼女を睨みつけようとしたところで――


「うっ……」


 ――後ろから、聞き覚えのある声でうめき声が聞こえてきた。

 唯一動く首から上を、何とか声の方へ向けると……そこには、臀部からパイプを生やして椅子にさせられていたガーツーが涙を流しながら倒れこんでいた。


「が、ガーツー!」


 縋るような目でガーワンを見るガーツー。そんな彼の頭を踏み潰す女がいた。


「はい、こちら今からガーワンさんにやる拷問を既に三分ほど受けた後のガーツーさんです。いやー、生きてるって素晴らしいですね。いろんなデータを取れますから」


 邪悪な顔をした女は、イザベルの従者。彼女はガーツーから足を離すと、楽しそうに語りだした。


「まずは投与した薬品ですが! これは痛みや感覚は残るけど肉体を動かせなくなる薬です! 筋弛緩剤と違って電気信号を送れなくなってて――」


「はいはい、レイラちゃん。薬品の説明じゃなくてやることの説明して」


 レイラと呼ばれた女はぶーと頬をふくらませると、懐に手を入れて薬品を取り出した。


「ではこちら、もう一度ガーツーさんに実演していただきましょー。さぁ、どうぞ」


 小瓶を振るレイラ。その途端に、ガーツーが震えてレイラに縋り付く。


「そ、それだけは勘弁してください! やめ、やめてください! なんでもしま、なんでもしますから!」


「ガーツー、誰がアンタに喋っていいって言ったかしら?」


 鈍い音と衝撃が空間に走り、ガーツーの体が宙に浮く。地面に叩きつけられ、血の涙を流しながらうずくまるガーツー。

 そのあまりに惨めで酷たらしい姿に、ガーワンの血の気がゾッと引く。


「アンタに許可したのは息を吸うことのみ。忘れたの?」


 ゴミでも見るような目で見下すイザベル。彼女はガーツーを蹴飛ばすと、やれやれと言わんばかりに首を振った。


「学習しないわねー、あんた。まぁ良いわ、それじゃあ今から約束通り地獄に叩き込んでから連行するわね。その後、裁判に引っ立てられるわ。そこで罪を償うの。いやー、悪人が陥れられるのって気持ちいいわね!」


 悪人――。

 再三言われた言葉に、ガーワンは苛立ちと共にかみつく。


「貴様……悪人、悪人だと? 私が? であれば、貴様が正義だとでも言いたいのか!?」


「はぁ?」


 何言ってるんだ――そう言わんばかりの顔で睨んで来るイザベル。舌打ちすると、ガーワンの額を踵で思いっきり踏みつけてきた。

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