22話――討滅のイザベル⑥
私は肩の方へ歩き、レイラちゃんはひょいと手をあげる。地面を思いっきり踏みしめ、回転蹴りで肩を蹴り飛ばした。
轟音が響き、肩が吹き飛ぶ。……あ、折るだけのつもりだったのに力加減を間違えた。
「イザベルさん、それで起きちゃったらどうするんですか。粉砕骨折してますよこれ」
「あー、まぁ大丈夫じゃない? あんたも壊したんでしょ、肩」
「バッチリですよ」
レイラちゃんはいつも通り、圧力をかける魔法で粉砕してくれたらしい。やっぱり便利ね、圧力をかける魔法。
「これで取り合えず身動きは――」
――取れないわね、そう言おうとしたところで……なんと、ガーワンの身体がしぼみだした。ギョッとしてその様子を見ていると、レイラちゃんはふむふむと興味深げに頷く。
「仮説通りですね。失血死です」
「失血死ぃ?」
なんでそんなことになるのよ……と思っていると、彼女はやれやれと首を振った。
「いや血、どうしてるのかなって思ってたんですよ。壊れた部位は戻らない……なら、止血しないで巨大化したらその分血が足りなくなるんじゃないかって。やってみたらやっぱり足りなくなりました」
その辺……ご都合主義的なことにならないのかしらね――じゃなくて。
「いや死んだらダメでしょ!? こいつが生きてる必要なんてないけど、ちゃんと捕まえて裁判を受けさせないと――」
「――大丈夫ですよ」
私が怒鳴っている間にも、ガーワンはどんどんしぼんでいく。そして元の大きさくらいになったところで――もう一度、彼の身体が光った。
そして現れるのは、無傷のガーワン。
「――あら?」
手足はくっついているし、目もちゃんとある。息も安定しているし……普通に生きてるわね。
首を傾げていると、レイラちゃんはパッと目を見開き……嬉しそうに両手を組んだ。
「いいですねぇ! 衝撃を加えられると巨大化して、死ぬと元に戻るシステム! 恐らく巨大化した肉体は魔力で作られた仮の肉体なんでしょうね。それが死ぬと解除される……ただ様子を見る限り痛みもしっかり受けるみたいですし、たぶん改造人間としては改造の最中だったんでしょうね。失血死する辺り、もっと謎が……」
「ちょ、ちょっと待ってレイラちゃん! 死なないって分かってたの!?」
目を輝かせてガーワンの体をぺたぺた触る彼女にそう聞くと、レイラちゃんはキョトンとした顔でこちらを振り向いた。
「え、そりゃ……分かりますよ。一回触ったじゃないですか」
「改めてアンタがチートだってことを思い出したわ」
ただまぁ、小さくなる時に怪我まで治るってのは便利ね。もしフレディのように夜明けと共に解除であれば、朝になれば小さく無傷になって逃げられるデザインなわけね。
面倒くささで言えばフレディの方が上だけど、こっちはこっちでタイマン性能であればかなり高いわね。
私はそう思いながら、ガーワンに近づく。
「痛みは感じるけど、元に戻る疑似的な不死……ね」
思い出すのは、さっきの写真。
人を人とも思わぬ鬼畜の所業。
この程度じゃあ、足りないわね。
「レイラちゃん、一回縛りましょうか。その後で……いろいろやりましょう」
いろいろ。
それだけで察したのだろう、レイラちゃんは嬉しそうな笑みから一転……妖しい笑みを浮かべた。狂気的で美しい、まさにマッドサイエンティストらしい笑みを。
「他の人は呼ばなくていいんですか?」
他の人……と言われて、私はいいことを思いつく。
「じゃあこいつが寝てる間に準備しましょう。……さっきも言ったわよねガーワン」
まだ気を失っている彼の髪を掴み、私も微笑みかける。
彼から無垢で純粋と言われた顔で。
「地獄に落とすって」




