3話――ラウワの帝王-④
「詳しい内容は後程決めましょう。というわけで、一旦私たちは失礼させていただくわ。あなた方の都合がよくなったら使いの者を寄越してください。――さ、帰るわよカーリー」
私が隣に座るカーリーに声をかけると……何故か反応が無い。不思議に思ってそっちを見ると――
「くー、くー」
「いや寝ないでよ!?」
――お子様には難しい話だったかしら。
私はため息をついて、彼女を揺するが一向に起きる様子が無い。
「……ちょっと、カーリー?」
話しかけてみても反応しない。嫌な予感が背に巡り、私は立ち上がる。
「すみません、連れが寝てしまったからお暇させていただきますわ」
「いえいえ、イザベル様。お連れ様が起きるまで、奥でおもてなしさせていただけませんか? そう……二、三時間くらい」
後ろから軽く肩に手を置かれる。私はその瞬間、すぐさまカーリーの首根っこをひっつかんで跳ねるようにソファから立ち上がった。
何も言わずに入口へ全力で走る。というか襟を掴んで振り回しているのに起きないなんて、確実に薬で眠らされてるじゃない!
(お茶は全部アクアに吸わせておいてよかった!)
入口の扉に手をかけた所で――顎に衝撃を受け、私は吹っ飛ばされる。ギリギリ手を挟んでガードしたから倒れなかったけど……若干足に来たわね。
さらに連撃。前からくる左右のこぶしを何とか躱すけど、回し蹴りを受けて壁に吹っ飛ばされてしまった。
「うぐっ!」
何とか受け身を取り前を見ると、そこには女の子みたいな顔をしたイケメンが立っていた。
ちょっと線は細く、目は垂れ目。肩ほどまである髪は目の色と同じく茶で、服装もホストっぽい。
……なかなか可愛い女の子ね。誘い受け、ってところかしら。
「親父、捕まえるのか?」
「ああ、マリン。存分におもてなししなさい」
こいつら親子なの!?
そんなことに驚いている場合じゃない。というかこいつが、情報だけで顔写真が無かった若頭ね。
「挨拶にしては情熱的過ぎないかしら。えっと……マリンちゃん? 女の子だったのね」
さっきのアクロバティックな動き……どう考えても、めっちゃ強い。荒事があるかもと思ってはいたけれど、睡眠薬を使われるとは思ってもみなかった。
やっぱりヤクザは怖いわね。
「オレは男だ。そっちこそ、今ので倒れてねえとか、ほんとに女かよ」
「失礼ね、どっからどう見ても女の子でしょ?」
踏ん張りがきかないし、足も広げられない。運動する格好で来たかったけれど、あんまりそれっぽすぎるとイザベルって信じてもらえないかもと思ってお嬢様っぽい格好だったのが裏目に出たわね。
っていうか、カーリーが守るって言ってくれたから信じてたのに!
「オレの蹴りで倒せねえ女とか見たことねえな」
「世の中は広いのよ。何せ霊長類最強のレスラーは、206連勝した女性だからね」
私は仕方がないので、アクアを出して水鉄砲を放つ。それを見たマリンはさっと屈み、背後に立っていたお茶くみイケメンがぶっ飛ばされて窓に突っ込んでいった。
「魔法も使えるのかよ」
身を低くし、こっちへ突っ込んでくるマリン。素手の喧嘩なんて、前世じゃ学生時代のキャットファイトしかないけれど……この体は運動神経抜群、身体能力最強クラスのイザベルの体(実際、コラボした格ゲーでは攻略キャラや主人公を差し置いてトップクラスの能力値だったし)。
使い魔を合わせればカーリーを奪還して――
「そこまでです、イザベル様」
――流石にそこまでうまくはいかないか。オルカの声で手を止めると、そこには縛り上げられたカーリーが。ご丁寧に頭にナイフまで突きつけられている。仕方がないので、アクアを引っ込めて両手を挙げた。
「マリンと張り合えるなんて……まさかイザベル様が、ここまで動けるとは驚きです。とはいえ、いくら手柄を一人占めしたいからといって、交渉にブレーンを連れてこないのは悪手でしたね」
「馬鹿だろ、一人しか護衛付けないで
イザベルのこと、アホだの馬鹿だのって言うのやめてもらえないかしら。事実陳列罪で極刑に処すわよ。
とは言えず、周囲を囲まれて後ろ手で縛られてしまった。そして目の前に来たオルカが、ふんと鼻を鳴らす。
「誰がブレーンですかな?」
「私よ」
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