21話――増殖! 真の危機!?⑪
「イケる!?」
「OKだよ女神!」
彼女がそう言うと同時に、私は足を百八十度天に向けて振り上げる。そして真っ逆さまに振り下ろすと――隕石が落ちたかのような爆音と衝撃波が発生し、地面がぽっかりと陥没した。
月のクレーターが如き巨大な穴に、大量に増えたフレディたちが次々と落下していく。
当然、足場が無くなった私たちも。
「「「うわぁあああああ!」」」
自由落下――私は空中でカーリー、ユウちゃん、マリン、レイラちゃん、ガースリーを抱き寄せてカーリーに指示を飛ばす。
「カーリー、着地任せた!」
「はーい」
フィンガースナップの音がした瞬間、景色が切り替わる。私たちはクレーターの淵に転移し、その場に転がった。
「い、生きてる……」
驚きに目を見開くガースリー。いいからさっさとどきなさいよ。私の上に乗る子たちを横にどかし、泥を払いながら立ち上がる。
「殆ど、ここに落とせたんじゃない? ……ってか、ユウちゃん。だいぶ大きい穴をあけたわね」
直径、一キロくらいかしら。深さも三階建ての建物くらいあるし……しかもボウル型じゃなくて円柱型の穴になってるし。超巨大な井戸みたい。
これを登るのは、私でも至難の業ね。
「こ、こんなに大きい穴を掘ったつもりは無かったんだけど……はは、ちょっとやりすぎちゃったかな」
「まぁいいんじゃないですか? っていうか、これだけ大きいならあの虫たちも簡単には出てこれないでしょうし。というわけで、皆さん木を切り倒して火をつけましょー」
楽しそうに笑顔で言うレイラちゃんだけど……。
「まさか、アンタ……」
「暴力で殺せないなら、窒息させればいいじゃない」
「いやどこのアントワネットよアンタは! ってそうじゃなくて、一酸化炭素中毒で全員殺すつもりなの!?」
一か所にまとめて穴に落として、一酸化炭素中毒って……孔明でもそんな外道な手段使わないわよ。レイラちゃんはドン引きしている私たちとは裏腹に、その辺の木を魔法で切り倒し、火をつけて穴の中に放り込む。
「実に効率的でしょう? 害虫駆除にはもってこいですよ。まぁ生木なんで燃えにくいですけど……そこはこちら。はい、イザベルさん」
「いやそうかもしれないけど……っと、これ何?」
レイラちゃんから投げ渡されたものを見ると……どう見ても、ライター。でもライターなんかで生木に火なんてつくかしら……?
恐る恐る、その辺にある木を蹴り倒してから火をつけてみる。するとまるで乾燥した枯れ木かってくらい燃え出した。
「ちょっ、なにこれ!?」
慌てて穴の中に放り込んでからレイラちゃんの方を見ると、彼女はドヤ顔で胸を張った。
「錬金術は『賢者の石』が目標と言いましたね? でもその元となる技術は遡るほど一世紀……」
「簡潔に答えだけ!」
「……使うとどんな物体でも燃やせるライターです。生木なんて一発ですよ」
割と無茶苦茶ね……なんでこんなもん作れるのかしらね、この子は。
私はそう思いながらも、再度その辺の木を蹴りでへし折ってから火をつける。そして穴の中に放り投げた。
そーっと中を覗き込むと、フレディが咳き込みながらこちらを睨んできている。私達が落とした木をこちらに投げて来ようとするけれど……如何に改造人間と言えど、燃えて脆くなっている木をこの深さから投げ返すのは容易では無いらしい。失敗して煙を広げるだけになっている。
「うわー……確かに簡単ね」
「中から出ようとする奴がいたら、カーリーさんが魔法で中に戻してください。そしてここをめがけてフレディが襲い掛かってきたら、中に落とせばいいので」
「効率的だね。人間の心が無いという点を除けば。流石、錬金術師だ」
ちょっと楽しそうなユウちゃん。この子は冒険者やってたからか、割と手段を択ばないところがあるわね。
ただ、この作戦には致命的な欠陥が一つある。
それは――
「なんだこんな物!」
「が、ガーワン様! お助けください!」
――巨大化する能力で、中から引き上げられることだ。とはいえ、フレディを積極的にガーワンは助けるかしらね。
ガーワンはこちらへ両手を器用に使って走り寄ってくる。私はそれを見て、笑みを浮かべた。
「私はあれを止めてればいいのね?」
「はい。巨大化するだけなら、イザベルさんの敵じゃないでしょう?」
何故か妖艶な笑みを浮かべるレイラちゃんに、拳を握って見せる。
「じゃあ、行ってくるわ。ガースリー、ガーワンに引導を渡すセリフを考えときなさい」
「えっ、あっ、は、はい」
勝利確定――そう思いながら、私は走り出す。
面倒なだけだったわね、改造人間も!




