3話――ラウワの帝王-③
「貴方の言う通りよ。信頼は非常に大切だもの。首は回らない、でも信頼は大切。そもそも貴方には恩があるしね。じゃあどうしましょうか? ――逆に考えたわ。貴方を潰すのではなく、商売敵を全部潰してあげればいいんだ、って」
そう言いながら、私はカーリーに合図を出す。彼女は周囲を警戒しながらも、カバンから数枚の書類を出した。
「……なんでございましょう、これは」
「簡単に言っちゃえば、お金を貸すこと専用の領法」
私の覚えている限り、前世で決められていたお金を貸す時の法律をまとめた物だ。
これに則ってお金を貸すことが出来なければ、逮捕してしまう法律。
オルカはサッと目を通しただけで、内容を理解したようだ。苦笑いしながら、ソファの背もたれにもたれかかる。
「なるほど、なるほど……債務者を守るためにはこれ以上無いほど、都合の良い法律ですな」
口元は笑うが、眼がいっさい笑わない。日本人は目元で相手の表情を判断し、海外では口元で判断すると聞いたことがある。
だとしても恐いわね、ヤクザの笑顔。
「まさか、ご自身の借金で首が回らなくなったから……このような法を作ると?」
はいそうです、とは言えない。私は取り敢えずほっぺたに人差し指を付けてみた。
「そう見える?」
「……」
口元をほんの少し歪めるオルカ。なんとまぁ、悪い顔。
私は指を外して、首を振った。
「流石にそんなわけ無いわ。だって、領法を作るよりもお金返す方が楽だもの。ーーさて、私に命令出来るのは誰でしょう」
明言せず、想像させるような言い方をする。案の定、オルカはほんの少し口を噤んで考えるような表情になる。
「摘発か……稼ぎすぎたか?」
聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で呟くオルカ。よしよし、引っかかってくれた。
「では何故私どもにこれを」
「簡単な話よ。バカと手を組んでも意味無いし、取引にならないでしょう?」
メリットとデメリットを天秤にかけて、判断できる相手じゃないなら成立しない。
「恩を売るのに最適なのは貴方ーーそう踏んだのよ」
「なるほど、概ね理解しました。つまり……先んじてこの事実を伝えるから、借金をチャラにせよと?」
「チャラは無いわね。もう少し返済を待って欲しいのと、新法に則った金利にして欲しいわ。そのうち全額返すけど、今はお金が無いのよねぇ」
いくらなんでも踏み倒すつもりは無い。ただ無限に養分にされるのは止めたいというだけで。
「お金にお困りでしたら、融通いたしますよ?」
「遠慮しておくわ」
オルカは怪訝な顔ーーではなく、少しだけ嬉しそうな表情になる。
私が何を言いたいのか察したのだろうか、それとも他の理由でもあるのかしら。まぁ私には分からないからいいけど。
「それともう一つ。協力関係を結びたいのよ」
「…………?」
たっぷり間を取るオルカ。数秒……何かを考えるような仕草をした後に息を長く吐き、笑みを浮かべた。
目も口も、しっかり笑っていると分かる笑顔。
「良いですな!」
オルカは身を乗り出して、目を輝かせる。私は拒否されなかったことにホッと胸をなでおろした。
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