20話――ぼっち・ざ・とうしゅ!⑤
決定的な言葉、一度出したら二度と取り下げられない……不退転の覚悟を持たねば発せない物。
親子の縁を切ると言うに等しいそれを聞いてなお――二人はニヤニヤした顔のままだ。
それどころか……。
「「わっはっはっはっは!」」
なんと、大笑いしだすではないか。
「な、何がおかしいんですか!」
「何がおかしいだと? では聞くが……ガースリー。何故私はここにいると思う?」
ここは父の部屋だが、イザベル様が祖父を怪我させたのだから……必然、敵対すると思って集まって対策を立てていたのではないだろうか。
「たがそれだけであれば、ガーツーを私の部屋に呼べば良い。別にここで待ち構える必要は無い」
確かに、怪我をしているのであれば尚更だ。
「それに、何故……ここに騎士を配置しているのだと思う? 普通であれば、情報を持った人間を逃さぬために屋敷の外苑に配置するはずだ」
……それも、確かに。
まるでここに、オレ達が来るのを分かっていたみたいだ。
まるでオレを嵌めるために――
「ま、まさか」
――嫌な予感が脳裏をよぎる。オレが動く前に一人だけ、この状況を知らせることが出来る人物がいる。
オレに働きかけ、こうして罠に嵌めることが出来た人物か。
首を横に向ける。そこにいるのは、麗しい女性。
だが、その実態は……!
「まさか……まさか、イザベル様!?」
「んなわけ無いでしょ。もう一人いるじゃない、ここに来るまでにガーワンに伝えられた人物が」
嘆息するイザベル様。すると次の瞬間、肩を力強く掴まれた。その手の厚みも重さも、オレがよく知っている物で――
「……ギルバート、さん……?」
ーー無表情に見下ろす、彼の視線から感情は読み取れない。
まるで理解が及ばない、思考が空転する。今自分が夢を見ているのか現実にいるのか、それすら分からない。
ただ……彼のくい込む指の痛みだけが、オレを現実に引き戻す。
「ご苦労だったな、ギルバート」
「なんのなんの。この老骨、ご主人のお役に立つべく働いています故」
いつも通り、いつも通りの好々爺といった雰囲気。オレに常に向けていた優しい笑みを、今は祖父に向けている。
それが余りにも受け入れられず、振り向いて彼の胸ぐらを掴んだ。
「ギルバートさん! 裏切ったんですか……裏切ったんですか!? 主人のために、って! 言ってくれたのは嘘だったんですか!?」
「坊ちゃま、おかしなことを申されますな。私は主人のためを常に思っております故」
主人、主人。
受け入れたくない、考えたくない。しかし状況が、彼の表情が雄弁に伝えてくる。
彼は最初から、自分の味方では無かったんだと。
「信じていたのに……信じていたのに!!」
「ええ、ええ。信じてくださったので、だいぶ楽でしたよ坊ちゃま。簡単に武装を解除してくださりました故」
そう言われてハッとし、腰に手をやるが当然そこに愛剣は無い。悔しさに歯噛みするが、今はそんなことを言ってはいられない。イザベル様を守れるように、彼女の前に立つ。




