19話――突撃! 隣の悪役令嬢!⑥
マリンがそう呟くと、ガースリーは土下座の体勢になって死にそうな声を出す。
「オレも消される……!? も、もしかしてオレもう詰んで……!?」
「大正解。正解者の中から抽選でハワイ旅行をプレゼント」
なるべく明るく言ってみるけど、頭を抱える彼には届かない。
仕方ないので、私は彼の肩に手を置いた。
「まぁほら、消されるって分かったならこれで一層やる気が出るってもんでしょ」
「いくらなんでもそこまで割り切れませんよ!」
でしょうね。私もそう思う。
ただ彼が割り切ろうとここから私達を裏切ろうと、立場が悪くなる可能性の方が高い。それならいっそ開き直ってしまったほうが勝算は高いと思うのよね。
なんて私が思っていると、彼は俯いたまま「ふふふ……」と不気味に笑い出した。
「分かりました、わかりましたよ! どうせ死ぬなら今から死にます!」
「たぶんガースリーは殺さないで、洗脳教育か幽閉パターンになると思うわよ?」
「どれでも一緒ですよ!」
憤慨した様子のガースリー。段々と事態が飲み込めてきて、いよいよ焦ってると言った風だろうか。
彼は怒りを滲ませた表情のまま、顎に手を当てる。
「でもせめて、もう少し戦力が欲しい。あの祖父が、こんなことを暴露されて黙ってるはずが無い。いや……あ、そうだ!」
「どうしたの?」
「オレの剣の師匠でもある、ギルバートさんに頼みます! あの人なら、きっと祖父の蛮行を知ったらオレ達の味方をしてくれるはずです!」
結局それでも一人しか増えないじゃん。
……と思ったけど、もしかすると領地騎士団の偉い人とかなのかしら。
私がそう訊いてみると、彼は笑顔で頷いた。
「はい! ギルバートさんは領地騎士団でも最強なんです! それに凄く正義感があって優しくて……!」
「薄い本が厚くなるからちょっとステイよガースリー。でもそんな人が味方してくれるなら心強いわね。どこにいるの?」
領地騎士団といえど、常に領主の館にいるわけじゃない。というか領地騎士団の本部を館内に置いておく人の方が少ないだろう。
「オレの師匠なんで、住み込みです。今日の夜会の警備もしてらっしゃいました!」
あら、それならすぐ近くにいるのね。
私達は一つ頷くと、扉の方へ向かう。
「じゃあガースリー、今からその人の協力を取り付けるとしたらあんたの話術とパッションが勝負よ」
「大丈夫です! ギルバートさんなら絶対に味方になってくれますし、他の騎士団の方々もきっと!」
まぁ仮に領地騎士団が四分の一でも味方になってくれるならだいぶ楽でしょうね。
私がガーワンを気絶させてから結構経ってる。そろそろ起きてきたら、私達の動きを気取られるかも。
「さて、急ぐわよガースリー!」
「はい!」
元気よく返事する彼は、ちょっと開き直った感じだ。
まぁでも男は開き直った方が強くなるものなのよ。
そう思いながら、私達は廊下に乗り出すのであった。
「あのハワイ旅行って実際に当たるんですかね?」
「なんで抽選にしてると思ってるのよ」




