19話――突撃! 隣の悪役令嬢!③
拳を握り、怒りに打ち震えるガースリー。だがすぐにだらんと手を降ろし、苦悩するような表情になる。
「教えていただき、ありがとうございました。……許せない、でも、どうすれば」
ガースリーは悔しそうに、歯を食いしばる。この表情が演技じゃないなら、まぁなんとかなるかしらね。
念のため、そういう察しもよさそうなユウちゃんの方を見てみる。彼女はいつも通りの表情で「いいんじゃない?」みたいにウインクしてきた。
「今は無理でも……学園で力を蓄えて……。一刻も早く、祖父の横暴を……」
「んな悠長にやってたら私の領地がヤバくなるわ」
軽くツッコミを入れると、ガースリーは目を見開いて私に詰め寄ってきた。
「じゃあどうすれば良いというんですか! 今のオレは家督も無い、ただ筆頭継承者というだけです! 今すぐ止めたい! でも、出来ないんです!」
「いやだから、止めたいって思うならそれでいいわよ。アンタが協力してくれれば、ガーワンをひっくり返せるし」
彼の方が少し背が高い。子犬みたいな見た目をしているのに、こうやって詰め寄られるとやっぱり男性だなぁという圧を感じる。正直、ちょっと怖い。
私は軽く彼を押して、肩をすくめた。
「混乱してるんでしょうけど、ちょっと私の話を聞いてくれるかしら。最初、私の領地が危ないって話したわよね? すぐに人が死ぬわ。そして――今止めないと、その間にあの男の毒牙にかかる人間は増えるわ。いい? 私の件も、この写真の件も。悠長にやってる暇は無いの」
そう言われてハッとするガースリー。やっぱり後から写真を見せたのは失敗だったわね、話が飛んじゃってる。
私は首を振って、彼の肩に手を置いた。
「マイターサが、危ないの。だからアンタに力を貸してほしくてここに来たの。どっちかっていうと……そうね? あんたが協力してマイターサの件をどうにかしてくれたら、こっちの写真の件も解決してあげる。そんな感じかしら」
「……でも、オレに何が出来るんですか?」
困惑した表情になるガースリー。流石にさっきの今で説明資料を作ることも出来なかったので、使い魔のボードを呼び出してそこに書いていく。
「じゃあザックリ説明するわね」
「ちょっとまってくださいこのホワイトボードはどこから!?」
「細かいことを気にすると禿げるわよ」
「細かくないと思うんですが!? ここオレの部屋ですよ!?」
「神経質ねぇ。私の魔法よ、魔法。じゃあこれを見て」
というわけでかくかくしかじか説明すると、最初は真剣な表情で聞いていたガースリーは「うわぁ……」みたいな顔になる。
「あまりにも……穴が多すぎませんかこの作戦」
「仕方ないじゃない、今決めたんだし」
「いやー、イザベル様は準備期間があってもこの程度だと思いまあいたたたた! ギブギブ、ギブですイザベル様!」
舐めたことを言うカーリーの背後に回り込み、こめかみをぐりぐりしながら回転する。




