18話――逆境フィフス④
「無茶だよ、女神。ルール的には問題ないけれど、それはあくまで病気や失踪などで急に前領主が身動きを取れなくなった場合だけだ。それに最終的な許可は国王陛下が決めるんだし……」
「そうね、普通ならそう。――でも人を大量に殺す命令を、普通の人間が出すかしら。ね、レイラちゃん」
「……ああ、認知症ってことにしちゃうんですか。いいですよ、診断書書きます」
きゅうりパックをしているレイラちゃんが手をあげる。実権を握っている祖父が認知症、実父は経営経験無し。そのため、ガースリーが継ぐというシナリオ。
いつも通り穴だらけだけれど、ちょっとでも理があると思わせればそれでいい。
「勿論、ガースリーにその気が無いならダメだけど……これなら裁判には持ち込めるはずよ。裁判で時間を稼げば、その隙にまた新しい策を……今度こそちゃんとした策を立てられる」
どっちも時間を稼げばどうにかなるものでもないけれど、時間を稼げればガーワンを失脚させる別の手段を考えられる。
アイツを失脚させさえすれば、どうにでもなるわ。
「……どう思います、ユウさん」
カーリーが不安げな表情でユウちゃんに問う。彼女は少し思案するような仕草を見せた後、眉に皺を寄せた。
「五分以下……だろうね。いくら何でも思い付きが過ぎる。普通ならこんなの上手くいくわけが無いし、こういうことを言って親から家督を簒奪しようとして制圧された子どもはごまんといる」
「そうなんスか?」
「ああ。何せ現時点では家督が無い以上、領軍を動かせない。つまり武力を持っているのは親の方なんだ。だからこそ、このルールが悪用されないってこともある。どれだけ理由を付けても、そもそも裁判まで行かないんだよ。その場で鎮圧されて籍を外されて終わりだ」
彼女はため息をつき――そして、私の方を見た。
「……ねぇ、女神。まさかとは思うけど、そこが狙い?」
「そりゃそうよ。何も言わずに家督をくれるならラッキー。くだらんって言って裁判に持ち込まれるなら、時間稼ぎ。一番楽なのは鎮圧しようとしてくることよ。そして間違いなくガーワンは、何度も鎮圧している経験があるはず。確かガーツー、アイツ長男だけど第三夫人の子よね」
私がカーリーに問いかけると、彼女は資料を取り出して確認してくれる。
「そうですね。……もしかして、第一夫人の子とかが歯向かって籍を抹消されたんでしょうか」
「可能性は十二分にあるでしょ。もしその夫人たちも、脅して囲ってたらクーデター紛いのこと起きてても不思議じゃない」
息子が母親の境遇に腹を立てて申し立て、それを鎮圧。可能性としては十分あるはずだ。そしてそれに慣れているなら、またかって出てくれる。
「武力衝突なら負けないわよ。なんてったって――私達、最強だから。ってわけで、今から証拠を見つけて、ガースリーに叩きつけるわよ!」
私の笑みに……カーリーとユウちゃんは苦笑を、マリンは溌溂とした笑みを返してくれる。ちなみにレイラちゃんからは寝息が聞こえて来てる。
さて、馬鹿な貴族に好き勝手させてたまるもんですか。
私達はレイラちゃんを置いて、部屋から出ていくのであった。




