18話――逆境フィフス③
口頭でのみ指示を出すとは思えない。可能性はゼロじゃないけど、ああいうタイプは書面でキッチリ残すと思う。
だって明確に人を殺せる指示だし、口頭の約束じゃ土壇場で反故にされる危険性がある。故にキッチリ相手への報酬とペナルティを明確化してるはず。
……全部私の推察ベースだから、無かったら詰みね。
「じゃあ、そこで情報を握って……逆に脅すってことッスか? そんな脅しに屈するんスかね?」
「まぁ開き直るでしょうね、もしくは知らないフリか。でも決定的な証拠じゃなくて良いのよ。中から食い破る手助けをするだけだから」
私の言葉に、キョトンとするカーリーとマリン。しかしユウちゃんは、恐る恐るという表情で問うてくる。
「確かに彼は既に16歳だけど……まさか、世代交代させるつもりかい?」
「ご名答。まだガースリーが染まってない今しかチャンスは無いわ」
この世界は中世ヨーロッパでも無ければ日本でも無い。爵位が財産であるという考え方に大まかな違いは無いけれど……根本的な部分で差異がある。
それは貴族は皆爵位を持っており、一族の中で一人だけが当主を名乗って領地を経営出来るという点だ。要するに、アザレア家なら私が当主になった後も両親ともども子爵を名乗れるが、領地の経営に口出しが出来ないということ。
そのため、親が死んだら貰うのは爵位では無くて当主の座。所謂家督というやつね。
息子が家督を継ぐにはいくつかやり方がある。
まずは親の死。遺言があれば、その通りに、そうでなければ第一夫人の長男が家督を継ぐ。
次いで指名。生きてる間に子どもを指名し、その権力を委譲する。大抵は耄碌しても委譲しないから大変なことになるんだけど、マングーみたいに家督をさっさと渡して実権だけ握る奴もいる。
ただこれだと、権力欲しさに親殺しをする輩が現れるかもしれない。若しくは完全に耄碌してるのに頑なに家督を委譲しない奴が出てくるかもしれない。
その他様々な可能性を鑑みて、この国では一つ公正な手段が残されている。
「ユウちゃんなら知ってるわよね?」
「勿論だとも、女神。現当主に領地の経営実績が認められず、且つ他領地の貴族一名以上の推薦があった場合、現当主の了承を得ず家督を継ぐことが出来る。その後、3ヶ月毎、三年間の監督を経て正式に……って、まさか女神」
「察しが良いわねぇ。と、いうわけで、経営実態の無い現当主であるガーツーから、ガースリーに家督を継がせるわよ。推薦は私が出来るし、ルール上問題無いもの」




