17話――ヴァルキリー・ドライブ・ヴィランズドウタ―⑦
「何を……何を、する気なの?」
「別に? だが着工中の治水工事……確か、ダムの建設だったね。ミスなんて誰にでもある、そう……例えば、固めた岩盤に石ころが紛れ込んでいたり、ね」
震える声で聞く私に、意気揚々と答えるガーワン。この私が最初に引き継いだ事業である、治水工事。
マータイサには大きな川が流れているのだが、雨季に入ると洪水を起こすことで有名だった。
それでも今までは堤防を作ることでどうにか出来ていたのだが、去年その堤防が崩れ……奇跡的に死者は出なかったものの、百名以上が重軽傷を負った。
その反省を踏まえて、今年は堤防の補修だけでなくダムを作ってるわけだけど……。
私は苛立ちで折れそうなほど歯を食いしばってから、なんとか口を開いた。
「……雨季までに堤防が完成しなければ、今度は何人死ぬか分からない。アンタ、自分が言ってること分かってんの!?」
「む? それは私のセリフだろう、イザベル。領民の生殺与奪の権を握られておいて、その態度はなんだ!」
大きな声と、感じるはずのない威圧感。ーー魔法ね、なるほど私を怯ませるなんてやるじゃない。
私は息を吐いて、彼の目を睨みつける。
「……生殺与奪ね。じゃあ先に要求を聞こうかしら」
「どこまでも傲岸不遜だな……! お前の母、オーブリーはそんな態度は取らなかった」
だって私、オーブリーじゃないもの。もっと言うなら、血すら繋がっていない。
でもそんなこと言っても、こいつには理解できない。だから私は、睨みつけたまま腕を組んだ。
「良いから言いなさいよ。場合によっては、頷いてやらんことも無いわ」
「ふん。だが、やはり美しい。……その目が、私からの求婚に一度も首を縦に振らなかったオーブリーによく似ている……!」
別に私はこの男に好意なんてこれっぽっちも抱いて無いけれど、かといって私の前で他の女への未練を垂れ流されて面白くも無い。
「だから何よ。オーブリーの代わりでもすればいいわけ?」
「ああ、そうだ」
端的にキモい。
……という言葉を飲み込んで、私は努めて冷静に問いかける。
「具体的にお願いしますわ、ガーワン様。母の代わりと申されましても、私は何をすれば良いか分かりませんもの」
「簡単だ。口答えせず言いなりになれば良い。端的に言えば、奴隷だ。貴族の女が、格で負ける家に入るのだから……徹底的に調教されるのは当然のことだろう?」
徹底的に、調教……!?
私は怒りで脳が沸騰しそうになるのを抑え、彼の情報を思い出す。
(こいつ……言われてみれば、敵対する家の女や格下の家の女しか嫁にしてない! ガーツーもそうだった!)
ふざけてる、あり得ない。
だけど今、眼の前にいるこの男が……発した言葉、態度。その全てがゲスの極みだと示している。




