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16話――しゃる・うぃ・だんす!⑤

 私たちが歩いてマグワーク子爵に近づくと、彼はこちらに気づいて少しだけ面倒そうな顔になった。


(マイケル・マグワーク子爵。年齢は三十歳くらいで、まだ家督をついで数年の青年。おっけー、ちゃんと覚えてる)


 頬がコケて幽鬼のような雰囲気を漂わせているけれど、身なりはいい。オールバックになでつけた金髪には、ところどころ白髪が混じっている。年齢にしてはやや老けた印象だけど、苦労してるからなのかしらね。

 メガネの下の視線が冷たく、こちらを馬鹿にしているのが伝わってくる。

 カーリーは、その彼の視線に少し怯んだようだけど私には関係ない。とびきりのスマイルを浮かべて、マグワーク子爵に話しかけた。


「ご機嫌麗しゅう、マグワーク子爵。マイケル様と呼んでもよろしくて?」


「こんばんは、アザレア子爵。出来ればマグワーク子爵のままで願いたい」


「……承知しました」


 やんわりとした言葉から感じる、明確な拒絶。私は笑顔のまま、取り敢えず手を差し出してみた。


「一曲いかがですか?」


「結構。ぼくはレギオンホース家の倅や君のように、体力があるわけでは無いからね」


 つれない返事。心底嫌そうな顔で吐き捨てたマグワーク子爵は、今は別の子と踊っているガースリーの方に視線を向けた。


「君こそ、もう一曲くらい彼に付き合ってはどうかね? 我が家なんかよりも遥かに格上の家だ。顔を売るならそちらの方が効率的だ」


 そこまで言った後、マグワーク子爵は口元に笑みを作る。皮肉げな笑みを。


「もっとも、貴族の女性には『顔を売る』という表現よりも体を売ると言った方が分かりやすいかね」


 隣でカーリーが目を見開いて驚く。私もまさか、こんなストレートにシモネタを叩き込んでくるとは思わなかったので、ちょっと眉にシワを寄せる。

 同じ爵位だから不敬罪になったりはしないけれど、こんなわざと怒らせるようなことを言って何がしたいのかしら。

 私は少し考え、言葉を選んで話しかける。


「……そんな態度で、ビジネスの時は問題無いんですか? 私も顧客になるかもしれないんですよ?」


「ビジネス? 顧客? 生憎だが、ぼくの商売相手は庶民なのでね。どこで聞き齧ったか知らないが、心配していただかなくても結構」


「貴方、卸売業をやっているんでしょう? BtoCの事業ならまだしもBtoB。仕入れで、卸でうちの商会が絡む可能性を考えれば、私と険悪になる必要性は無いと思いますが」


 努めて冷静に言ってみる。そして私は止むなく、彼がバックにつく商会について軽く情報を出してみる。


「昨年、マングーの一部地域で麦が不作だったせいで、バーチから仕入れている干物が売れなかったそうで。在庫はどうされました?」


「……何故、麦の不作のことをご存知で? そして、何故それが干物に関わると?」


 怪訝な顔をするマグワーク子爵。食いついて来たことにホッとしつつ、説明する。

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