16話――しゃる・うぃ・だんす!②
「ごきげんよう、ガースリー様」
私が笑顔で彼の名を呼ぶと、何故かガースリーは少し照れたようにほほを赤らめた。女たらしの一族のくせして、童貞みたいな反応するわね。
「ご、ごきげんよう。えーっと……その……い、イザベル様」
照れながら、しかしぎこちなく手を差し出してくるガースリー。後ろを見ると、既にオーケストラが準備をしている。今から真ん中を開けてダンスの時間なのね。
よく見ると、周囲の男女もちらほらカップルを決めている。主催者が出てきたら若い奴らはダンスなりして場を盛り上げつつ、大人(笑)は談笑ってのはこっちの世界じゃスタンダードなスタイルだったわね。
(ええ……同じイケメンならユウちゃんがいいんだけど)
改めて見るガースリーは、人懐っこい系のイケメンだ。ふわふわの金髪に、翠の瞳。背は私より高くて、細身。なんというか、ちょっと「お世話してあげたい」って感じのタイプだ。
こりゃモテるでしょーね、可愛いとか言われて。私は嫌いだけど。
(でもおっさんと組まされるよりはマシか)
私は嘆息して、彼の手を取った。
「それじゃあ踊りましょうか、坊や」
「え? あ、あえ? ……えっ?」
私は目を白黒させている彼の手を取って、会場のど真ん中へ。
私は悪役令嬢なので、本来の歴史では王子様と婚約するのだけれども……今はまだ婚約者無し。彼と踊っても問題は無いだろう。
ってか、元々私と王子って幼なじみのはずだけど、今世で一度も見たこと無いわね。大丈夫かしら。
(ま、いいわ。どうせ婚約なんて形だけのつもりだし)
ど真ん中でスッと手を差し出すと、ガースリーは困惑したようにその手を取る。
「あ、あの……イザベル様。手が逆なのでは……」
「あら、あんた私をリード出来ると思ってたの? 十年早いわ、もっといい男になって出直してらっしゃい」
テキトーなことを言いつつ、私は改めて彼を観察する。重心の置き方や鍛え方からして、武道をやっている様子もない。魔力はかなり高いけれど、高いだけ。
(踊れば、身体能力も分かるわね)
曲が始まる。私は彼をリードするように腰に手を当て、ステップを踏みだした。
普通なら逆なのだけれど、リード側なら振り回せるからね。これの反応である程度分かるでしょ。
「お、おいあれ……」
「あ、アザレア子爵のところのイザベルだろ……?」
「なんと素晴らしいステップなんでしょう」
ユウちゃんから踊り方を習っておいてよかったわ。
私は彼の手を取り、回転しながら声をかける。
「もう少しスピードアップしても良い?」
「え、あ、はい。大丈夫です!」
「気合入ってるわね。舌噛まないでね?」
少し――マリンならついてこれるだろう、というスピードで足を踏み込む。私に腰を抱かれたままのガースリーは、わくわくした表情でこちらについてくる。
互いの手を握り、音楽に合わせて回転する。うん、この身体能力は間違いないわね。
「い、イザベル様……」
「どうしたの? 大技でもやる?」
「い、いえ……その、うわっ」
私は彼を抱き上げて、回転する。これはユウちゃんに習った技じゃないけど……どこで見たんだったかしら。たぶんアイススケートね。
地面にいったん降ろし、今度は片手で彼を真上にぶん投げる。するとガースリーは、見事に空中で一回転、そして私の手の上に片手倒立の状態で着地した。
「わー、あんた凄いわね」
「い、いやイザベル様!?」
着地したガースリーに拍手が巻き起こる。




