16話――しゃる・うぃ・だんす!①
隣に立つカーリーの方を見ると、彼女も頷いた。私の抱いた違和感の通り――アレは、アイツらは『人造人間』だ。
(通りで美男が多いって言われるワケね)
まさかここで戦闘になることは無いでしょうけど、『組織』と繋がりがあるなら私達が恨まれている可能性はある。
そして『組織』に関わりがある人間はレギオンホース家だけじゃなく、ここに潜んでいるかもしれない。
(ユウちゃんはマークを連れて部屋に行ってるし、レイラちゃんは寝てるし……)
万が一戦闘になったら、面倒は避けられないわね。
私は長く息を吐いて、連中を見つめる。
『皆さん、本日は我が孫、ガースリーの誕生祝いにようこそおいでくださいました』
壮年の男性が喋りだす。妙に声が大きくなっているところから考えて、拡声系の魔道具を使ってるわね。
ってか、今日ってガースリーの誕生日パーティーだったわね、人を覚えるのに必死で忘れていたわ。
ガーワンの横に出てくる、甘いマスクのイケメン。私と同じくらいの年代――彼がガースリーね。
『今年でこの子も、十六歳。来年は学院生になります。私や息子も通った王都学院ですが、この子もきっと素晴らしい時を過ごしてくると思います。ただ、我が家は代々、正直あまり頭の出来はよろしく無いので学業は心配ですが』
『お、お祖父様やめてください』
会場に笑い声が湧き上がる。至って普通、普通のスピーチ。しかし私はどうしても、彼らの素性が気になってしまう。
「(マリンくんちゃんさんにそれとなく探らせますか?)」
「(三つも敬称付けなくていいでしょ。いえ、ここは様子見よ)」
彼らが悪さをしているとは限らない。そもそも『組織』の目的も分かっていないから、関係者ってだけでしばくのも良くないしね。
私達が観察している間にも、ガーワンのスピーチは続く。
『皆様の一年も素晴らしいモノになりますように。では、乾杯!』
会場で一斉に「乾杯!」という声が響く。他の国や元の世界はどうか知らないが、こっちの世界の夜会では主催者が乾杯の音頭を取ったら全員で一斉にグラスを持ち上げ、飲み干すのが基本だ。
その時に「飲み干す」のがマナーであるため、主催は飲み物の量がちょうど良くなるまでスピーチをするのが決まりとなっている。
……のだけど、私のこのグラスさっきの強いお酒のままだわ。
(アクアに吸わせるしか無いわね)
なんか飲まないとマナー違反な気がしてちょっと気が引けるけれど、まぁバレないしさっきと同じようにアクアに吸わせて――
「これはこれは、イザベル様」
「むぐっ!」
――後ろから話しかけられ、咄嗟に飲み込んでしまった。
(やばっ、ミスったわね。あ、でも美味しい……でもやっぱ濃い!)
私は笑顔で振り向きながら、自分の状況を把握する。
(うん、脳は正常に働いてる。ただ一気に気持ち悪くなってきたわね……この体、酩酊しないで気持ち悪くなるタイプなのね)
お酒を楽しめるけど、既定値を超えたら吐くタイプ。もう今日はこれ以上飲めないわ。
なんて感想を浮かべつつ、話しかけてきた男――すなわちガースリーに向き直った。




