100話記念 閑話休題 マリンくんちゃんの日常①
というわけで、どうも逢神です。
えー、百話で完結と言ったな。アレは嘘だ!
……すいません、俺の見通しが甘かったです。
流石に風呂敷を広げたので、このままキリの良いところまで書き続けるつもりです。
ただ、現在のように毎日更新ではなく、平日更新で土日お休みというサイクルに移らせていただきます。そろそろ、「異世界なう」もかき始めねばならないので。
というわけで、俺の我儘に付き合ってくださった皆様。ありがとうございます。
今回は100話ですので、記念として「マリンくんちゃんの日常」という閑話を挟ませていただきます。
全3話です、お楽しみください。
それではどうぞ!
雀の鳴く声とともに、オレの日常は始まる――
「ん……ふぁふ」
欠伸をしながら、どう考えても使用人に与えるにはデカいベッドで目を覚ます。クイーンサイズなのだが、これだけ大きいとちょっと寝る時に寂しい。姐さん達には内緒だけど。
ネグリジェを脱いで畳み、カーテンを開けて朝日を浴びて伸びをする。後は顔を洗って、髭を剃るだけ――
「――あ、そういえばカーリーさんに『生えてないんで不要ですね』って剃刀とか持っていかれたんだった」
ちゃんと生えているのに。
全身に殆ど体毛が生えていないが(腕も足もつるっつるで生えてるのを見たことが無い)、髭だけは生えている。生えているのに。
「……うぶ毛って言われたなぁ」
鏡を見ると、男前な自分がうつっている。何度言っても姐さんには『可愛い系』と言われるが、ちゃんと男らしい顔立ちをしているつもりだ。
キリっと決め顔の練習をした後は、着替え。毎晩姐さんやカーリーさんが「明日はこれ!」とメイド服を置いていくので、毎朝それを着ている。
着づらいから毎度同じものにして欲しいが……敗軍の将として、そして姐さんに忠誠を誓った身としては文句は言わない。
「今日は……ガーターか、これ着けるの面倒なんだよな」
ため息をつくが……実は、最近はこうやって色んな装飾のついた服を着るのが楽しくなってきたので、ちょっと楽しみだ。
白いガーターストッキングを履いて、ガーターベルトを腰に巻く。ベッドに足を乗せて前のホックを止めて、横のホックも点ける。
その後にショーツを履いて、最後に上からナイフベルトを巻いてナイフを挿入する。今日は家で警備の日だし、そんなに本数は要らないだろう。
鼻歌を歌いながら、ワンピース型のメイド服を着る。今日は青基調で、白いエプロンにミントグリーンのリボンを巻いた物だ。
自分には服装については分からないが、もっとゴテゴテしてる方が好みだ。腰の後ろに大きいリボンがある奴とか。
メイドプリムを付けて(姐さん曰く『これが無いとメイドじゃない』らしいので。掃除の邪魔だけど)、着替え完了。
後は朝ご飯を一緒に皆と食べたら、一日の業務開始だ。
「よし、今日も一日頑張るぞ」
胸の前でグッと拳を握る。
オレの男らしさは、メイド服を着ていても損なわれない。
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「だからレイラちゃん!!!! 工房を爆破すんなって言ってんでしょうが!!!」
「いや爆破したかったわけじゃないんですけどねー。なにがダメだったんでしょうね、ニトログリセリンを作っただけなのに」
「んなもん作って爆発しないわけ無いでしょ!? 私でも知ってるわよ!!」
「結晶化には成功してたんですよ? うーん、やっぱり向こうとこっちじゃ物理法則もちょっと違うんですかねー」
「よくわかんないけど、片付けときなさい!」
今日は爆音とともに、レイラさんの研究所が真っ黒になった。吹っ飛んだ粉々の扉を見ながら、オレはひょこっと顔を出す。
「レイラさん、お手伝いするッスか?」
「あー、お願いします」
レイラさんは、マイペースな人だ。ご飯を呼びに行っても来ないことがよくあるし、そもそも二、三日見ないことだってざら。
会話もたまにかみ合わないし、起きてるのか寝てるのか分からないこともある。
でも――優秀。
「今日、何してたんスか?」
大きい破片を箒で集めながら彼女に問う。レイラさんは『ソウジキ』って呼んでた魔道具で、更に細かい破片なんかを吸っていた。アレを使うと屋敷の掃除がはかどるので、いつも借りているが……今日はここの掃除だけで、『ソウジキ』の中にあるごみ箱が満杯になるだろうな。
「いやー、マリンくんちゃんさんの」
「どれかでいいッスよ」
「マリンちゃんの新しい武器を作ろうと思ってまして」
「あ、一番女の子っぽいのが残るんすね」
というか、新しい武器か。
素手じゃ正直、他の皆さんに追いつけそうに無いのでナイフを装備するようにしたが……後は剣と弓矢くらいしか扱ったことが無い。
ナイフ以外だと隠密性というか秘匿性が低いので、あまり持ちたくないが……。
「作ってからのお楽しみですけどね。魔力を使うタイプだけだと味気ないので、今は安定して火薬を作れるようにしてるんですが……冶金の技術も必要なんで、作るの楽しいんですよね」
「は、はぁ……」
相変わらず、相手に理解させる気の無い説明。決して「分かりやすい」説明が出来ないわけでは無いのは知っているが、面倒なのが勝つんだろう。
散らばった破片を拾い、吹っ飛んで粉々になったガラス製の瓶などをゴミ袋に入れる。
「あ、その辺はあんまり触らないでください。貴方の皮膚でも溶けますよ」
「え……」
普通の人間とは別次元に頑丈に出来ているはずのオレの皮膚を溶かすって。
とんでもないモン作ってるなー、と思いながらオレはガラスの破片群から即座に離れる。
「えーっと、向こう拭いてください。あっちなら安全なんで」
「はい」
雑巾を持ってきて、長い棒の先に付ける。レイラさんが『クイックルワイパー』と呼んでいた棒だが……これだと中腰にならずに済むからだいぶ楽だ。
「…………」
「…………」
む、無言が辛い。これが姐さんなら何も頼まなくても喋ってくれるし(しかも面白いし)、カーリーさんなら家事のことなんかで話題も弾む。ユウさんからは口説かれる。
しかし、レイラさんは本人が気乗りしないとそもそも口を開かないから……。
「そういえば、マリンくんちゃんさん。生殖能力、取り戻したいですか?」
「え?」
「前は別にって言ってましたけど、気持ち変わったらいつでも言ってくださいね。戻しますから」
以前も言われた、生殖能力の問題。
その時は別に何とも思わなかったが、後々になって姐さんからも『もしアンタが、誰か好きな人が出来た時に子どもが出来ないって悩むかも』と言われた。
オレの好きな人は、姐さんだ。でも姐さんと子どもを作りたいとは思わない。
それに――。
「オレは、親父のあんな光景見ちまいましたから。アレを見た後、正直女の人とそういうことをしたいなんて思えないッス」
女の人を傷つける行為では無いと、頭では分かっている。
しかし、育ての親の非道を見た後では……能力があっても出来るとは思えない。非道で、外道な行為としか思えない。
決して褒められた生き方をしてきたわけでは無い。舎弟を従え、乱暴もしていた。しかしそれでも『表』と『裏』の線引きはしていたつもりだった。
あんな『表』にいる人間を『裏』に落として外道を働いたことは無いし、今後もするつもりは無い。
「だから、もし戻せたとしても……オレはこのままがいいッス」
しかしその一方で、自分もどこかで親父の片棒を担いでいたのは間違いない。
だから、今後……もしも、そのことで傷つき悩む日があったならば、それは贖罪だろう。
外道働きをしていた罪の。
「そうですか」
オレの話を聞いたレイラさんは、あっさりしたものだ。ちょっと落胆した風だが、それは実験できなかったことに対してだろう。
彼女が掃除に戻ったので自分も拭き掃除に戻ると――「でも」と、レイラさんは相変わらず淡々とした口調で口を開いた。
「気にし過ぎだと思いますけどね。親だろうが、自分の所属していた組織だろうが所詮他人です。他人の罪まで背負う必要はありません」
「……そんなもんッスか?」
「ええ。現にこの屋敷にいる誰も、貴方の素性を聞いた上で『外道』と罵らないでしょう? 貴方と触れ合って会話して、貴方が『外道ではない』と理解しているからです」
からん、と手にしていた『クイックルワイパー』を取り落とす。それを見たレイラさんは、首を軽くひねった。
「あれ、持ちづらかったですか?」
「え、そ、そんなこと無いッス!」
「なら良かった。滑り止めならいつでも付けるんで、必要になったら言ってくださいね」
振り返り、ガラス瓶の片付けに戻るレイラさん。
彼女は事実しか言わず、言いたいことしか言わない。
それが分かっているからこそ――
(……そうか)
――オレは、この部屋を一生懸命掃除しようと思えた。
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