白い部屋 起承転結 一部始終
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起:男が目を覚ますと、そこは白い部屋であった。
パチリ。何かのスイッチが入るような音と共に彼は目を覚ました。
そこは、白い部屋だった。キョロキョロを周囲を見回すと、四方の壁のうち、一方に灰色の扉があるのみで、他にはただ、白い壁と床と天井があるのみ。光源もないのに、何故部屋がこんなにも明るいのかは、見当もつかなかった。壁がプラスチックのような白いつるりとした素材であるのに対し、扉は灰色の塗料で塗られた金属扉のようであった。扉に近づいて見ると、銀色の回すタイプのドアノブがついていて、目線の高さに金色のプレートに、黒い字で「承」と書かれていた。その他は、鍵穴も何もなかった。その後の部屋中を見て回ったが、やはり、というべきか、この部屋からは、この状況のヒントになりそうなものは何も見つからなかった。仕方ない、とやや緊張しながら、彼はドアノブを回した。
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承:扉を開けると、その向こうも白い部屋であった。
「承」と書かれた扉を開けてその向こうを覗いて見ると、そこもまた白い部屋であった。奥にはもう一つ扉があるようだった。中に入ると、一つ目の部屋と同様に、壁も床も天井も、白いつるりとした素材で覆われていた。一つ目の部屋との違いは、扉が二つ、向かい合う壁にあることのみであった。振り返って見ると、扉のプレートには「起」と書かれていた。おそらく、扉の向こうの部屋を指しているのだろう、と推測出来た。部屋の中には家具も何もなく、壁や角を観察してみても、「起」らしい部屋と同じく、この状況のヒントになるようなものは何もなかった。彼は落胆と、状況が把握しきれないまま進んでいくことへの若干の焦燥を抱いたそして、「起」「承」と続くなら……などと考えながら反対側の扉に近づいて見ると、プレートにはやはり、「転」と書かれていた。「転」ならば何か変化があるはずだ、と逸る気持ちに後押しされながら、彼は「転」の部屋へと続く扉を開けた。
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転:扉を開けても白い部屋であったが、反対側に扉はなかった。
「転」と書かれた扉を開けても、その向こうはやっぱり白い部屋であった。しかし、彼が入って来た扉とは反対側の壁に、扉は無かった。左右の壁も同様である。ただ、白いつるりとした素材が壁と、天井と、床を覆っているのみ。変化は変化であるが、こんな変化は望んでいなかった、と落胆を感じつつも部屋を観察していると、床に、金色のプレートが落ちているのを見つけた。近づいてよく見ると、その金色のプレートには、「結」と書かれていた。こんなものが自分の終わりなのか、と絶望に打ちひしがれ、思わず床に膝をついた。自分でもいつの間に、こんなに心が疲弊していたのかわからなかった。ただ、虚無感が頭を埋め尽くす。まるで、床についた膝から地面に沈み、落ちていくような気がする。だからだろうか、床ががぱりと開いたことに何も反応出来なかった。気がする程度ではなく、実際に沈み、落ちつつあることに、床の向こう、暗がりの黒さが目に入るまで、何の行動も起こせなかった。緩慢に手を伸ばすが、つるりとした床はなんのとっかかりにもならず、伸ばした手は意味を成さずに彼はその向こうの暗がりへ滑り落ちていった。彼の手が完全に床から剥がれ、その隙間は閉じた。光の届かない暗闇の中、案外、落ちる感覚というのは緩やかなのだな、という雑念が彼の頭の片隅を過ぎり、しかしそれ以上の意味を結ばないまま、彼の意識は途絶えた。
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結:男は暗闇へと落ち、意識が途切れた。
この話はそれでお終い。彼が再びどこかで目覚めるのか、それとも目覚めないのかは別の話。あるいはページ。
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起承転結であること以外、何もわからない。
無限ループって怖いね。ここにあるのは彼が起きて、結末を迎えるまでの一部始終だけ。これは、何度目の「起承転結」なんだろうか。何度目の「一部始終」なんだろうか。