第三十五話 そして、雨宮笑舞は逃げ出す。
「体育祭は青春のシンボル!!」
累君がそう、マイクに向かって叫ぶ。
累君、練習したとは言え凄いなぁ。
こんなふざけた台本、よく言えるなあ。
私、もうセリフが飛んじゃいそうだよ……
っあ次、私の番だ。
*
「でもやっぱり?」
そう、累君に問い掛けるようにマイクに向かって話す。
「モテたい!!」
すると、ジャージを荒く脱いで下の『モテたい』と印刷された白シャツが顕になる。
そう、ここだ。ここで、言うんだ。言う、言う。言う……
でも今は台本通りに……
「だったらだったら? アピールする所とかあったり?」
不味い、台本と違うこと言っちゃった……
そうして私が少し焦って居ると、累君は私の肩を優しく叩いた。
「ない!」
その言葉で、私の背中が押された気がした。
私、ずっと累君に助けられてばっか……でも、これで決心した。
言う、絶対に。
「誰か〜、この人、モテたいらしいです〜。彼女になってくれる人とか居ます〜?」
来た。ここ。
数秒の沈黙が流れ、一気に会場が笑いの海になる。
ほぼ自虐ネタで笑いを取ってるやつだが、累君は少し満足気に笑った。
いつの間にか、周りの目が気にならなくなっていた。
私は、私と累君だけの世界に入った。
なんだか楽しかった。
累君と一緒にステージ上をデュエットしている感覚で、全てが研ぎ澄まされている感覚だった。
ほんの数秒だけ、私は最高の時間を過ごした。
このまま、絶好調のままで告白をする。
私の最高のステージは出来……え?
……あそこ。手、挙げてる人が居る。
生徒達の居る所の奥、保護者席に1人……
あれは……見た事がある。
長い髪、スラリとした体型、整った容姿。あれは……
「寺田、冬」
なんで、冬がここに? 人が居た時の台本なんて、考えても無い……
そして、生徒達は少し騒がしくなる。どうしよう、どうしよう……
「あんな美人が俺の彼女なんて、無理が過ぎる!」
「たたた、確かに……そそ、そう……だね……」
動揺のせいだろうか。舌が、上手く回らない。
口ではそう言ったが、実際。まだこの状況に反応出来てない。
そうやって黙り込んだまま考えている所、累君はどんどん話を進めてくれる。
「……まぁ、じゃあ! ありがとうございました!」
そう、累君がどうにか開会式を終わらせた。
今からでも逃げ出したい……
うん。もう、嫌だ。
こんな形で、諦めさせられた。
もう、無理だ。
そうして、私はその場から逃げ出した。
走る、走る。走る……
その内、累君から発した「まって」という言葉にも気付けなかった。




