第八話 作戦会議
大変申し訳ありませんでした。八話を飛ばして投稿しておりました。
「作戦会議って言っても話を聞く限り、錬金アイテムをジルが使った事まではバレてんだろ?今更どうするってんだ?」
少し落ち着きを取り戻し、ルイズから事の経緯を聞いたラルグが覇気のない声で問う。
「トニルが今回の事を報告すれば、ジルは黒として見られるだろうね。だが、あたしは今回の件が伯爵の個人的な意志で動いてるんじゃないかって睨んでるんだ。」
「伯爵様のですか?公務では無く?」
ジルがやや不安げに首を傾げる。
「あぁ。仮に公務で錬金術を使った輩を捜査しているとしたら、ジルが動揺した時点で拘束したはずだからね。そのまま帰るなんて有り得ないさ。かと言ってトニルが私事で星の雫を探しに来たとも考えにくい。領都は今魔物狩りの件でバタバタだ。そんな時期に、私事を優先してカルド村に来ることはまず無い。忙しい時期に実質リクトルーゼ領のNo.2をカルド村に差し向けられる人物は……」
「ザース・フォン・リクトルーゼ伯爵様……。」
ルイズの推論を聞きながらメルクはポツリと呟く。
「その通りだ。ただ公然と錬金ポーションを探してると言うのもあらぬ誤解を招くからね。だからこそ、あんな取ってつけた様なポーションの依頼になっちまったんだろうさ。」
「それでは伯爵様は何故、星の雫を探しているのでしょう。」
今度は顎に手を当てながらルイズの話を聞いていたジルが口を開く。
「まさにそこが今回の件の肝だ。星の雫はジルが友人の解呪を行う為に作った物だ。つまり……」
「おいおい。まさか誰かが呪いにかかって、伯爵様はその薬を使うつもりってことか?錬金術のポーションを?仮にも伯爵だぜ?」
「確定じゃ無いよ。あくまで推論に過ぎない。今回の状況からすると、その可能性が高いって事さ。」
そんな事がと言った様子のラルグにルイズは念を押した。
「でもばぁちゃん、領軍とか一般人に薬飲ませたら、それこそ伯爵様が錬金アイテムを使った事が公にならない?」
「あぁそうさ。だから公には使えない。となれば、呪いを受けたのは伯爵自身かその身内ってところじゃないかい?相手は領主だ。自分や身内であれば何とでも言い訳が立つだろうしね。」
「なるほどな。わざわざ腹心の部下であるトニル殿を遣わせたのも情報漏洩を少なくしたかったって事か。」
ラルグも腕組みをしながら納得した様子で頷く。
「仮に……この推論が正しいとすれば、近いうちにジルは領都に召喚される筈だ。長く見積もって、おそらく依頼したポーションを受け取りに来た時にでも話があるだろうね。」
ジルの表情が曇る。
「って事は俺らに残された猶予は60日って事か。」
「いえ。呪いを受けた方の容体によっては数日中ということもあり得るでしょう。」
「数日中!?なら早く動かないと!ばぁちゃん!」
慌てたメルクがルイズにせっつく。
「慌てるんじゃないよ!ジルの反応を見てすぐに帰った事を考えると、まだ猶予はあるはずさ。だが、確かに時間はあまり無いと思った方が良いかもね。作戦としては、まず星の雫を完成させることだ。」
「ですが、星の雫はあれ以来作れていないのが現状です。数日で完成させるのは難しいのではないですか?」
「確かに完成は難しいかも知れない。だが、切り札になり得る以上は取り組んでおいて損はないはずさ。星の雫作製の件はあたしとメルクでやるよ。」
3人が頷くのを見てルイズは次の段階を発表する。
「次の段階はジルに偽りの記憶を与えてはぐらかす事だ。どっか適当な所で見つけて、錬金アイテムだと知らずに使ってしまったって感じの記憶にすれば良い。」
「偽りの記憶?錬金術ってのはそんなこともできんのか?」
ルイズはコクリと頷く。
「『夢見の薬』と言う物がある。飲んだ者に3 日間だけ偽りの記憶を与えられる。飲むとすぐに酩酊状態になるんだが、その間に聞かされた事をまるで本当に経験してきたかの様に記憶するんだ。」
「はぇー。初めて聞いた。」
「私も初めて聞く錬金アイテムですね。興味があります。」
興味津々なメルクとジルだが、ラルグは全てが初耳なのでそんな物もあるのかとしか思わなかった。
「だが、記憶をいじったくらいで身の潔白を証明できるもんなのか?」
「自白剤を使えば良い。錬金術で作った自白剤だと夢見の薬も看破されちまうが、そんなもん持ってる奴なんかいないさ。錬成術の自白剤は夢見の薬を看破できないからね。」
「内容の詳細はどーするの?」
「そうだねぇ。ダンジョンで見つけたことにしようか。カルド村の西の森にダンジョンがあったろう?そこで新たな隠し道を見つけたジルは最奥で星の雫を手に入れたってことにすんのさ。」
ダンジョンとは、様々な魔物が発生し、希少なアイテムが発見される場所だ。一度攻略するとアイテムは見つからなくなるが、魔物は発生し続ける。攻略済みダンジョンは修行や魔物の核である魔石を求めて多くの冒険者達が訪れる。ルイズの言う西の森はマグリアの森と呼ばれ、錬金術や錬成術の素材が豊富に採れる。その中心部にある洞窟がマグリアの洞窟というダンジョンになっていた。
「西の森……マグリアの洞窟か。あそこは攻略されて久しいダンジョンだが、大丈夫か?」
「大丈夫さ。自白剤を使って得た情報だよ?疑いようがないだろう。なんか特殊なギミックがあった事にすんだよ。」
矢継ぎ早に質問が飛んでくるので、心なしかルイズの説明が雑になる。
「ラルグ。お前さんにはマグリアのダンジョン報告書を改竄して、ジルが新たなルートを見つけた事にしてもらいたい。村を救う為だ。出来るだろ?」
「報告書を受け取るのは受付のカイラだが、確認するのは俺だからな。そこは問題ないと思うぜ。」
「ありがとう。ジル。ダンジョンに潜った経験は?」
「初級クラスなら有りますが、マグリアの洞窟は中級クラスですよね?中級クラスダンジョンに潜ったことは無いです。」
「分かった。ラルグ。元冒険者のお前さんならマグリアの洞窟にも詳しいだろ?ダンジョンの知識をジルに教えてやってくれ。詳しく知っていた方が夢見の薬を使った時の効果が高くなるからね。」
分かったとラルグは頷く。
「よし!作戦は決まった!あとは各々行動あるのみ!頑張るよ!」
ルイズがパンと手を叩いて気合を入れると、3人も各々で気合を入れる。
ラルグは足早に店を出て役場に戻っていった。ルイズは今後の細かな流れを2人に伝え、メルクには改めて星の雫作製の進捗を説明した。気がつくと太陽は西へ傾き、窓から入った西日が店内をオレンジ色に照らしていた。
数ある小説の中から『Alchemy Record』をお読みいただきありがとうございます。ご感想を頂ければ創作意欲も高まりますので、是非お待ちしております。