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Alchemy Record-アルケミレコード-  作者: 猫倉 ろく
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第一話 カルド村へ

乱文で読み苦しい事も多いかと思いますが、感想・ご指摘等を頂ければ幸いです。



 新暦526年火の月38日


 夏の日差しが照りつけ、ゆらゆらと陽炎が揺れる平原を進む人影が2つ。1人は少年、もう一人は初老の女性だ。


「あぢぃー!重いー!疲れたー!……ばぁちゃーん!」


 大荷物を背負った少年の少し前を歩く初老の女性は、日傘を差しながら半身で振り返り、ため息交じりの言葉を返す。


「今からそんな調子じゃぁ、日暮れまでにカルド村なんか着きゃぁしないよ?ばぁちゃんの方がいっぱい荷物を運んでんだから、お前も頑張んな!」


「ばぁちゃんは荷物の魔法使ってるから、その日傘くらいしか持ってないじゃん!僕の荷物も荷物の魔法(それ)に入れてくれたっていいじゃんかさー!」


 まだ体が成長途上の子供にとって、炎天下の中を大荷物で歩くのは(こた)える様だ。愚痴をこぼしている少年の名はメルク。寝癖がついた黒髪はボサボサで、服も地味だが、綺麗に整えれば、顔だちもそこそこ良く、どこかいい所のお坊ちゃんの様に見えるだろう。そのメルクに、ばぁちゃんと呼ばれている初老の女性はメルクの祖母ルイズだ。白髪の割合が多くなった長い黒髪をポニーテールに(まと)めている。恰好は平民の女性がよく着ている普通の服だ。2人は平原を2つ、山を3つ程越えた先にあるカルド村に引っ越す道中だ。村と言ってもカルド村は、『商業都市メテナント』と『領都トルニド』の大体中間に位置する村落(そんらく)のため、行商人や冒険者などがよく立ち寄る。食料品店や宿屋、鍛冶屋などもあり、そこら辺の町よりはるかに栄えていた。


「荷物の魔法?あぁ、『マジックルーム』のことかい。だったらお前も使えばいいじゃないか。……簡単な魔法も使えないお前が悪い。ぼやく元気があるなら足を動かしな!」


「僕だって使えるもんなら使いたいさ!ばぁちゃんの教え方が悪いんだ!」


「自分の至らなさを棚に上げて、教え方が悪いだって!?まったく!恩を仇で返すような事を言うのはこの口かい!?」


「いででででで!ばぁひゃんひはひひょ!(ばぁちゃん痛いよ!)」


 二人以外誰も居ない平原に、口喧嘩の声が溶けていく。


 それから半日程経っただろうか。いよいよ陽が傾き始め、西の空が赤紫色に染まりだした頃、2人は平原を抜け、山道の入り口に建てられた小さな小屋の前に居た。疲れた様子が無いルイズと、息も絶え絶えに座り込むメルク。炎天下の平原行軍で、いよいよ限界が来たらしい。


「はぁ……はぁ……ば、ばぁちゃん……もう無理だよ……動けそうにない……今日はもう休もうよ……。そもそも半日でカルド村に行くなんて無理だよ。」


「かー!情けない!地べたに座り込んで不平不満を垂れるくらいなら、もっと建設的なことを考えられないもんかねぇ。」


 (すで)に日暮れに差し掛かっているが、カルド村到着を諦めた様子の無いルイズに、メルクは頭を抱える。改めて言うが、メルク達が住んでいた家からカルド村までは、平原を2つ、山を3つ越えなければならない。幌馬車の行商人でも3日はかかる道程だ。そして二人の現在位置は、最初の平原を越え、一つ目の山の入り口付近。子供と初老の女性が徒歩で進めば、6、7日はかかるだろう。


「考えろって言ったって、距離的に無理じゃんかさー……。」


「まったく……。メルク。魔法発動における三大要素は何だい?」


 ルイズの唐突な質問に、メルクは少し驚いて顔を上げた。


「突然どうしたのばぁちゃん。いよいよボケちゃった?」


「いいから。答えな。」


 状況が呑み込めないメルクを無視して、ルイズは答えを急かす。


「もー……えっと、確か区分・事象・制御……だったっけ?」


「ふむ。では、マジックルームの区分・事象・制御は何だい?」


「えーっと……区分は空間属性、事象は亜空間、制御は固定と……保持?」


 コクリと頷くとルイズは矢継ぎ早に質問を重ねる。どうしてこんなところで魔法の講義が始まるんだと呆れ顔のメルクだったが、拒否すると後々面倒になることを経験から知っていたので、渋々質問に答えていく。


「では、マジックルームに生き物を入れたらどうなる?」


「んー、亜空間特有の魔力酔いになるかな。それから、それ(マジックルーム)の空間は空気が存在しないはずだから……死んじゃうと思う。」


「正解だ。ちゃんと勉強してるじゃないか。魔法の名前を覚えられないのは……まぁ、今回は大目に見てやろうかね。」


 ルイズはふっと笑うと、メルクの頭をわしゃわしゃと撫でる。ルイズは昔からこうだった。こういう質問をする時は、大体メルクの考えが及ばないことに対して、ルイズがヒントを与えてくれている時だった。メルクはルイズの質問をじっくりと再考する。


あれ(マジックルーム)の区分・事象・制御……空間属性・亜空間・固定と保持……空間属性の魔法には確か一瞬で遠くに行けるような魔法もあったと思うけど、そんな魔法は僕もばぁちゃんも使えないしなぁ……。)


 うーん、と頭を悩ませるメルクを、ルイズはただ静かに見守る。


あれ(マジックルーム)が何かのヒントなんだろうけど、あれはただ、亜空間に物をしまったり出したりするだけなんだよなぁ……。まぁ、何時(いつ)でも何処(どこ)でも出し入れ自由ってのは便利だけどさー……。ん?何時でも何処でも……?出し入れ自由……?)


 何か(ひらめ)いた様子のメルクは、確認を取るようにルイズに質問する。


「ばぁちゃん、荷物の魔法(マジックルーム)みたいな亜空間を創る魔法って、同時に2つ以上は展開できないの?」


「マジックルームに限らず、1人の術者が展開できる魔法は、同時に1つまでだね。」


「ダメかー……。短縮の制御をかけた亜空間をいっぱい展開して繋げたら一瞬でカルド村まで行けると思ったのにー。」


 メルクは分かりやすく肩を落とす。ぐぬぬ、とメルクは再び思案に(ふけ)る。やはり、ルイズは黙ってメルクを見守っていた。数分間考え込んだ後、もう一度ルイズに質問する。


「ばぁちゃん、魔法をどっか遠くに展開することはできる?」


「術者だけでは無理だけど、錬金アイテムを使うとすれば可能だよ。『魔境の合せ鏡』ってアイテムを使うのさ。二枚一組の鏡の片方に魔法を使うと、もう片方の鏡から魔法が発現するって代物だ。」


 よし!とガッツポーズを決めたメルクは、明るい表情で話を続ける。


「因みにばぁちゃんさ、そのアイテム持ってたりする?そんで、都合よく鏡の片割れがカルド村にあるとか……」


 ルイズはふふふと不敵な笑みを浮かべて答える。


「持ってるねぇ……。カルド村にもう片方の鏡もあると思うよ。」


 ルイズの言葉を聞き、メルクもふふふと不敵な笑みを浮かべる。空間属性魔法『マジックルーム』は、亜空間内に何かしらの物があれば、術を解いても、その亜空間は消えない。つまり、物を出し入れする時にしか魔力を消費せず、亜空間を維持することができる。1つの魔法を同時に複数発動することはできないため、亜空間内に物が1つでもあれば、何度マジックルームを発動させても、毎回同じ亜空間に繋がるというわけだ。

 これらを踏まえて、メルクの考えはこうだ。まず、ルイズがここでマジックルームを使い、メルクが入る。一度術を解き、素早く『魔鏡の合せ鏡』を使って、カルド村にマジックルームを展開させる。展開させたマジックルームからメルクが出た後、今度はメルクが『魔鏡の合せ鏡』でルイズの居る小屋にマジックルームを展開する。ルイズが中に入ったら術を解いて、鏡を使わずにマジックルームを発動させる。そこからルイズが出れば、片道約6日の道程が数分に変わる。『魔鏡の合せ鏡』とマジックルームを使える者が2人居れば、この移動方法は可能となる。メルクは意気揚々と思いついた移動方法の詳細をルイズに説明した。


「大正解だメルク!よく『魔鏡渡り』に辿り着いたね!流石だよ!」


「なんだよー!やっぱりばぁちゃん知ってんじゃんかー!最初から教えてくれればこんなに時間かからなかったのにさー!」


 褒められたことを喜びつつ、案の定、方法を知っていたルイズに対し、メルクは頬を膨らませて見せた。


「いや、メルク。お前が自分で答えに辿り着くことに意味があるんだよ。ただ与えられる答えなんかには何の価値もありゃしないさ。ところでメルク。あんたの辿り着いた『魔鏡渡り』には致命的な欠陥があるんだが、気づいてるかい?」


 メルクは少し動揺しながらも、何が欠陥なのかを必死に考える。悩み始めるメルクを見て、ルイズはこめかみを抑えながら呟いた。


「メルク……。お前、魔法使えないだろ……。」


「あっ……。」


 夏にしては些か涼しい風が、立ち尽くすメルクの頬をそっと撫でた。

お読み頂きありがとうございます。最初から結末までのプロットは何となく出来ているのですが、仕事の関係や、当方が遅筆の為、投稿ペースは非常に遅いかと思います。何卒、温かい目で見て頂ければと思います。

数ある小説の中から『Alchemy Record』をお読み頂いた方には感謝しかありませんが、ご感想を頂ければ創作意欲も高まりますので、是非ご感想お待ちしております。

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