21 悪役令嬢、同士と語る
男装をし、街へと出かけた私。
当初は作品を作るために必要だったラピスラズリを買いにいくことを目的としていた。
「まぁ! あなたがそれじゃあ……」
「ええ、エドワードです。あの絵を書いています。熱烈な感想をありがとうございました」
が、今は乙女ゲームの主人公セレステを誘い、彼女とともに街中のカフェにいた。
セレステは仕事中だったのだが、店長が気前よくセレステに休みをくれた。
あの店長に感謝だね。
滅多に外に出ない私はセレステに会うことはない。
学園にセレステはいるだろうけど、私は学園に行きたくない。
だから、こうしてカフェにこれてよかった。
カップを手に取り、コーヒーを飲む。
「まぁ……ご本人に話してしまうなんてとても恥ずかしいことを」
「気にしないで。感想が聞けたのでよかったと思ってる。僕はそんなに実際の感想を聞けるわけではないので」
「そうなんですか? あんなに有名にもなれば少しは聞けるはずでは?」
「うーん。そのはずなんだけれどねぇ」
人から実際に聞く感想は父伝えにしか聞かない。
それか、デインが得てきた噂か。
手紙もあったようだけれど、なぜかパパは見せてくれなかった。
きっと酷いことでも書かれていたから、見せてくれなかったのだろうけど。
というわけで、私はまともに感想に聞いたことがない。
「作品創作に没頭してて、あまり感想を聞くことはなかったんだ。言ってても聞こえなかった」
「そうなんですか」
「だから、あなたが語ってくれて本当によかった。自分に自信が持てたよ」
安心させるように笑みを見せる。
セレステは返すように笑ってくれた。
「私も語ってよかったです。本物に会えたので。それでなんですけど……」
頬を赤く染めた彼女はもじもじとする。
一体なんだろうか?
サインが欲しいのかな?
「エドワード様にご相談があるんです」
「相談?」
「はい、私も絵を描いてみたいんです」
セレステが絵を?
私は意外な話に頭の上にはてなマークを浮かべる。
「私はそんなにお金があるわけでもありません。学園に通っているのですが、絵の才能ではなく、魔法の才能があるらしくて通わせてもらっているんです」
そう話すセレステの顔は徐々に暗くなっていく。
セレステは魔法の才能に恵まれている。
それは乙女ゲームに置いて十八番になっているが、今の彼女には嫌そうに見えた。
「魔法の才能を認められて、学校に通わせてもらっていることはいいんです。国の方が私を魔法省に入れたがっているのも知っています。でも、私は……」
「絵が描きたいと」
私がそう言うと、セレステは静かに、
「はい……」
と答える。
その気持ちはものすごく分かる気がする。
やっぱり自分の夢は叶えたいし、好きなことを仕事にしたいものね。
私はうーんと唸って、考えた。
すると、頭の中に1つの案が思いつく。
「ねぇ、セレステ。よかったら、僕の家で絵を描かない?」
「へっ!?」
セレステは気の抜けた声を出す。
彼女は驚きの顔を見せていた。
「エドワード様の所でですか?」
「うん。僕の家なら画材をもあるし、人の目を気にすることなくできると思うんだ」
セレステが学園で絵を描いていたら、変に注目を浴びるし、令嬢たちがセレステをいじめる要因になるかもしれない。
まぁ、本来いじめるはずの私がいないから、あまり心配しなくてもいいと思うけど、でも、私の家なら安心して絵を描けると思う。
それに誰かと一緒に描くっていいかもしれない。
こうして画材を自分で買いに行かない限り、私はほとんど家から出ないしね。
「どう? いいでしょ?」と微笑みかける。
セレステは遠慮しているのかもじもじする。
「その……私なんかが行ってもいいのでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。僕は貴族の家で描かせてもらっているから」
「き、貴族のっ!?」
「うん!」
私がニコリと微笑むと、セレステはなぜか苦笑いをしていた。